2015/06/30
No. 43 「繊維の指定用語の問題にチャレンジ しましょう …」
思いつきラボ
2018/04/30
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2018年4月30日時点の内容です。
2018年4月20日に、安全色と安全標識関連の JIS規格が改正発行されました。JIS規格で新しいものが制定されたときは、筆者が絡んでいるものであればこの思いつきラボでも紹介させてもらっているのですが、改正の規格を取りあげることはまずありませんでした。
JIS規格は制定・改正されると、それから 5年を経過するまでに「確認・改正・廃止」の判断をすることになっていますので、毎月かなりの量の作業が行われています。よほどの内容改正がないと原稿にすることもないのですが、今回の改正は、その“よほどのこと”があったのです。改正された JIS規格は次の2点です。
JIS Z 9101は、ISO 3864-1:2011を基に内容を変更することなく作成しているのでスムースな改正となったのですが、JIS Z 9103 は“安全色”の内容が大幅な変更となりました。発行 された規格の付属書 JC “多様な色覚に対する配慮”の中に色覚の分類についての記述があるので紹介しますと・・・
JC.1 色覚の分類
網膜には L,M,S の3種類のすい(錐)体細胞があり,それぞれ主に長波長(long),中波長 (middle),短波長 (short) の光に反応する。一般の人はこれら 3種類のすい体を全てもっているのに対し、いずれかのすい体を欠失していたり、吸収特性が異なっていたりするために、色の感じ方が一般と異なる人が存在する。これら一般の人と異なる色覚は、色覚異常又は色覚障害と呼ばれることもあるが、本来異常又は障害と呼ぶべきものではなく、血液型と同様に人類が進化の道程で獲得した多様性の一つであると考えられている。
とあります。
これまで安全色の規格は、3種のすい体を持つ 3色覚の人を対象に作成されていました。すい体の1種類を欠失している2色覚を対象としたものは、本文とは別に附属書に掲載されてきました。それが今回の改正で3色覚の人も 2色覚の人達もみんなが見えるものを“一般材料”とするべきということで改正が進められたのです。
JIS Z 9101 の最初の制定は 1953年 7月 24日で、JIS Z 9101:1953 安全色彩使用通則として、そして1955年 8月 25日には JIS Z 9103:1955 が発行されたのです。1953年は昭和 28年ですので、65年の間、色覚者のタイプによって別に取り扱われていたのが、この改正で一緒になったのです。今までの考え方からすれば“よほどのこと”と言える大改正なのです。
とは言うものの、65年もの間3色覚の人だけを対象にしていた規格ですので、2色覚者の視覚域を合わせると色度範囲がいままでのものとは違ってきます。いままで“安全色”と呼んでいたものがこれからは“安全色”ではなくなりました・・・ということになるので、この規格を基に作られていた標識やマーキングなどに大きな影響が出てしまいます。そのためかなり慎重な議論が繰り返されながら改正が進められてきました。筆者も本委員会のメンバーで参加させてもらいましたが、改正データの確認やら従来規格との整合性を図る作業などで、本委員会とは別の分科会やら作業部会やら作業準備会・・・さらに準備会のための下打合せなど、意見交換の多い改正委員会となりました。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックが開催される ことも規格変更の後押しになりました。多くの色覚多様性の人達が集まる最大級のイベントですので誰もが安全に見える色範囲で案内標識やマーキングをするべきとなったのです。いままで判別しにくかったものが少しでも視認性がよくなれば、安全性は高まります。2色覚の人達が判別しにくい例と今回大改正に至った理由も JIS Z 9103 の解説に記載されていますので一部ですが、紹介しておきます。
一般材料の色度座標の範囲では,現行の色度座標の範囲では、一般と異なる色覚者の人には異なる色が同系色の色に見える。とくに“赤”及び“緑”では、“赤”は禁止及び危険を意味するが、“緑”は安全状態を意味し、正反対の意味でありながら同系色に見えることは見逃すことができない。さらに、“赤”は色調によっては“黒”と、また“緑”は色調によっては“灰色”と似て見えることがあり、暗い廊下及び灰色の壁に掲示された安全標識が目に留まりにくいという問題がある。この件についてはこれまで改正のたびに指摘されてきたが解説で言及するにとどまってきた。今般、健常者にも一般と異なる色覚の人にも色の違いが視認できる色の調査を実施し、その結果を JC.4 に示した。
※ JC.4 の記述は省略
ということで、“安全色”の色度範囲に「ユニバーサルデザインカラー(だれもが識別できる色)」が採用されました。安全色や安全標識に関わる方たちは是非、改正版を読んでいただき新しい色への対応をお願いしたいと思います。
最後に、これまでの規格では健常者と色覚異常や色覚障害という単語を使用していましたが、改正規格からは色覚異常という言葉は使わす、色覚多様性という表現に変わっています。これは 昨年の2017年 9月に日本遺伝学会が発表した遺伝子的には異常ではなく、人類の進化の間に血液型の A型 B型 O型 AB型のように3色覚 2色覚に分類されたから、という考え方に基づいています。同時に発表された優性遺伝⇒顕性遺伝、劣性遺伝⇒潜性遺伝に改められたのと同じで誤った解釈をなくそう、という配慮から変更されたものです。言葉遣いにも注意が必要になりました。
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防災・安全評価グループ グループ長
竹中 直(チョク)
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