2017/04/30
No. 87 「熊本地震から1年が過ぎました…」
思いつきラボ
2017/03/15
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2017年3月15日時点の内容です。
2017年 3月 11日で東日本大震災から6年の月日が経過しました。復興の遅れが気になりますが、2月 28日に宮城県で震度 5弱の地震が発生し、気象庁の発表によれば 2011年の大震災の余震と考えられると報じられました。6年という歳月は自然から見れば一瞬の出来事になるようで、まだまだ大きな余震の可能性はあるとの注意も伝えられました。少しづつでも震災前の生活に戻ってほしいと願うしかありません。
この時期、東日本大震災を教訓にして震災対策や避難経路の整備の事例がテレビや新聞で紹介されることが多くなります。筆者の所属部署が防災・安全評価グループなので、情報も多く寄せられます。その中で地域防災の対策活動で興味深いプロジェクトがありましたので、今回はその活動を紹介したいと思います。
昨年暮れの 12月22日に起きた新潟県糸魚川(いといがわ)市の大規模火災の記憶もあたらしいですが、木造建築密集地帯で火災が発生すると消火活動や救助活動が思うようにできません。消防隊が到着しても車が入れる道もすくなく路地が入り組んでいると、火災現場の場所の特定にも時間を要します。一刻を争うときに消火作業の初動が遅れてしまいます。糸魚川市大規模火災でも、消防車が到着しても放水作業にすぐに取り掛かれなかったことも被害を大きくしてしまった一因に挙げられています。
今回紹介する地域は京都市東山区六原(ろくはら)地区で、「路地・まち防災まちづくりプロジェクト事業」の取組が非常にユニークで有効な印象を受けました。それは名もない路地に名前をつけて場所の特定がしやすいようにすることと行き止まりの “路地(ろじ)” と二方向避難可能な “小路(こうじ)” と区分けをしたことにあります。
通常会話で “袋小路(ふくろこうじ) ”といえば行き止まりのことを指すので、本来の意味で “路地” が行き止まりという意味ではありませんが、ローカルルールとしての取り決めになります。
要は住んでいる人たちがその違いをまず理解しておけば、災害時の避難には行き止まりの路地に入り込むことを避けられます。小路と呼ぶ二方向避難可能な通行路を通って行けばいいのです。
この京都 六原地域の防災まちづくりの取り組みは平成 24年にスタートしたとのことで、まず行き止まりとなる袋小路の奥に避難扉を設置できるところには取り付け、どちらから火の手が上がったとしても通り抜けられるようにしたのです。それをきっかけに、この町に適した防災対策に取り組み、およそ 90ほどある路地に名前をつけて名称を表示する看板を設置して、普段の生活から路地の名前に親しんでもらうことになりました。
この時に付けた名前が、行き止まりになる路が「○○路地」とし二方向避難が可能な通り抜けできる路を「○○小路」としたのです。
京都では地名に「上ル(あがる)下ル(さがる)」という表現を使いますが、これは御所のある北に向かって“上ル” と言い、南に向かうときは “下ル” を使います。これも覚えてしまえばどこに居るかが分かりやすいので、京都ルールとして浸透しています。
大阪でも道路の名称に「筋(すじ)通(とおり)」と使い分けされています。南北にはしっているのが “筋” で、御堂筋(みどうすじ)、四ツ橋筋(よつばしすじ)、堺筋(さかいすじ)など名前が付けられています。
東西にはしる道は “通” で、中央大通(ちゅうおうおおどおり)、長堀通(ながほりどおり)などが挙げられます。
このように地名に決め事を作って利用者が認知していれば、災害時にかかわらず、普段の生活でも役に立つことになります。
避難誘導の講習会や防災セミナーでは、被災者が携帯電話を持っているということを前提とするようになりました。携帯電話利用者が少なかったり、地下施設での電波状況が悪かった10数年前にはなかった考え方ですが、災害時に居る場所を携帯電話で伝えることができるようになったからです。
携帯が普及していないときは公衆電話を探すか近所の家にお願いするしかなく、今から考えれば時間ロスが多かったことになります。わずか数分の差で被害が大きくなったり、人命への影響が悪化することもあるので、携帯電話の普及は防災や避難には有効な道具ということになります。
ということで、今回の京都 六原でも災害にあって動けなくなったときに、携帯電話で「○○路地に居ます。」とか「○○小路の表札が見えます。」とか伝えると、救助隊は迷わず最短で現地にたどり着くことが可能になります。
地下施設でも地上と同じ住所表記をしている地下街もあります。こちらも災害に遭遇してしまったときに「○○町○丁目○番 地下1階」と携帯電話で使えれば、最短の非常出口から救助に向かえます。地下街にも住所表記はあるのですが、一般的には「○○町○丁目地下街」となっているので、詳細な位置までは判断できないものになっています。
大阪地下街では避難誘導標識と非常出口記号が併記されているものがあります。大阪市の地下街の非常出口には番号が付けられていて、誘導標識の設置場所から一番近い非常出口の番号を記載しています。これも災害時に閉じ込められたとしても携帯電話でその番号を伝えたら、最短ルートで救助隊が駆けつけられるということを想定して設置されています。
京都 六原の事例のように地域ルールの取り決めをすることで災害時の行動が早く取れることや、携帯電話を活用して避難行動や救助活動を迅速に行うことができるなど、防災対策や避難誘導対策も日々進化しています。木造建築密集地域がある自治体は京都 六原の防災まちづくりの活動を参考にしていただきたいと思います。
防災対策に関しては準備しすぎということはありませんので効果のありそうなものは取り入れていただきたいと思います。
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一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
防災・安全評価グループ グループ長
竹中 直(チョク)
E-mail: bosai_anzen@nissenken.or.jp
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