2014/04/15
No. 14 「蓄光商品はなぜ光るのですか…」
思いつきラボ
2016/05/30
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2016年5月30日時点の内容です。
防災・安全評価グループの試験に蓄光素材の輝度測定があるのですが、試験の対象品としては避難誘導標識に使われるフィルムや樹脂が主なものになりますが、防災関連商品の他にもファンシー商品として蓄光原料が使われています。
その中で自然石を模した樹脂石・セラミック石・ガラス石なども造られています。
ふとしたことから「自然界にも蓄光する石はあるのですか?」という質問を受けました。
“蓄光”というのは一般用語で物理用語としては“燐光(りんこう)”となるのですが、もともと燐光現象が見つけられたのは自然石からなのです。鉱物における燐光とは、発光輝度も弱く残光性も短いもので。残光時間が1秒に満たないものでも残光が見られれば燐光現象と判断されることになります。物理定義としては 10 ns(ナノセカンド)を超える残光があれば燐光で、10 ns未満であれば蛍光と扱われます。
ns(ナノセカンド)は 10億分の 1秒ですので、1億分の 1秒を超えれば燐光現象となります。実際には人間の目では判断できません。
光る石伝説は世界中に多く残っているようですが、代表的なものは放射性物質を含んだ隕石で地球に落下した後も数日間光続けていたもののようです。科学が発達していない時代では、神の怒りとして捉えられたか何かの祟り(たたり)と受けとめるしか理解できなかったことに思います。
燐光現象を起こす石で記録に残っているものは、17世紀初めのイタリアのボローニャ石と言われています。イタリア北部にあるボローニャ地方のパデルノ山から見つかったとあります。
ヨーロッパの 17世紀という時代は“錬金術”が盛んに行われていた時代で、亜鉛(Zn)やアルミニウム(Al)などの卑金属と呼ばれた当時価値の低いものを金(Au)・銀(Ag)・銅(Cu)などの貴金属に換えることに数多くの優秀な技術者たちが取り組んでいた時代なのです。
このボローニャの石は太陽の光を吸収していると考えられていて、金に換わる最適な石として錬金の技を駆使されたようです。当然のことながら、煮ても焼いても金に変貌することはあり得ないことなのです。当時、科学というものが認められない時代で、教会の教えや聖書の記述のみが正しいものと考えられていました。
あのガリレオが地動説を唱えて天動説を否定し教会の怒りを買い、終身刑に処せられたのは有名な話です。そんな時代ですから元素という考え方もまだなく、何らかの方法で金や銀は造れるものと信じられていたようです。
今なら笑い話ですが、筆者もこの時代に生まれていたら、きっと躍起になっていたと思います。当時の錬金術士がいろいろな加工手法を試みたなかで、この石と炭を合わせて焼くと冷めた後に暗所で赤い光を放つことが発見されたのです。これが燐光性を持つ 蓄光石 の最初の発見と言われています。
のちに、このボローニャの石は硫化バリウムを含む石であることが解明されていますが、当時はバリウムの元素は知られていませんでした。
亜鉛やアルミを金や銀に換えることはできませんでしたが、この時代の錬金術のおかげで、硫酸や塩酸や硝酸が発見されていることやさまざまな加工手法が編み出されて現在の科学の礎(いしずえ)になっているのも事実なのです。無駄なようなことをしているように思えますが、結果からするとこれほど文明の進化に貢献した時代はほかには見当たらないかもしれません。
ボローニャの石の不思議な光は、当時の知識人たちによって発光のしくみについて議論が交わされたようで、ボローニャの石は太陽の光や火を蓄積することができるというのが一般的な見解であったとあります。この頃から石が光を蓄えるという発想はあったようです。
その後も科学の発達で燐光性をもつ石や蛍光性のある石は発見されています。ダイヤモンドの中にも燐光が見られるものもあるそうです。しかしながら人工的に造られた蓄光石ほど初期輝度が高く、残光性の長いものは自然界では今のところ見つかっていません。ネットで天然蓄光石の怪しげな情報もあるそうなので、誤った情報に注意することも必要です。
燐光する有名なダイヤモンドを紹介しておきますと、アメリカ スミソニアン博物館のひとつである国立自然史博物館に所蔵されている「ホープ・ダイヤモンド」と呼ばれるブルー・ダイヤモンドです。 45.50カラットでクラリティ VS1(ブイエスワン) のブルーダイヤとしては世界トップクラスの大きさを誇るものです。もともとはもっと大きくて、17世紀には112.18カラットもあったと記録されているとのことです。「呪われし宝石」としても名が通っていて、呪いの伝説もいろいろとあるようです。
呪いの伝説に興味のあるかたは自分で調べていただくとして、このダイヤがなぜ燐光現象を起こすかというと、このダイヤの構成元素には希土類元素(レア アース)が混入していると考えられています。
ダイヤに限らず、天然鉱石はその生成において単一元素で構成されることはほとんどありません。ダイヤモンドに紫外線を照射すると、ほとんどのものに蛍光反応が見られるとのことです。さらに紫外線照射を止めた後も光りつづけるのも稀(まれ)にあり、その性質をもったものがいわゆる燐光現象が見られるダイヤモンドということになります。
希土類の元素の特定までしている記述はありませんが、希土類が含まれていることで燐光すると考えられています。ダイヤモンドの蛍光発色は、赤系のものや黄色系や青色系など多色にわたって確認されていますので、希土類の特定までしようとすればひとつひとつごとに異なったものになると考えられます。
天然ダイヤか人工ダイヤかを判別するときにも、この蛍光反応が利用されています。天然ダイヤの蛍光性は紫外線を使用することで容易に確認することができます。
今のところ人工合成ダイヤに紫外線を照射しても蛍光反応を示すことはありませんので、ダイヤモンドの真贋を確かめたい時にはお試しください。とはいえ蛍光反応の弱いものもありますので、素人判断では迷うときは鑑定士さんに相談してみてください。
筆者も一度ダイヤモンドが本物か偽者かを確かめてみたいのですが、肝心のダイヤモンドを持ちあわせていないのです。(そりゃ 無理でしょう!!)
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一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
防災・安全評価グループ グループ長
竹中 直(チョク)
E-mail: bosai_anzen@nissenken.or.jp
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