2017/04/15
No. 86 「“プロミックス” と “ポリクラール”のお話です…」
思いつきラボ
2015/07/15
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2015年7月15日時点の内容です。
繊維の資格試験の時期でもあり、過去の問題集や当センターの採用試験の問題など、ここのところ休憩時間や仕事が終わったあとに職員同士で問題を出し合ったり答えを調べたりしている光景を目にする機会が多くなりました。
筆者も思いつきラボの原稿を担当するようになって質問を受けることも増えてきているのですが、これがなかなか手ごわい問題が多く、解答するのに四苦八苦しております。繊維業界に長く身を置いていても、専門外のことはまだまだ知らないことのほうが多いのです。
先日知り合いの子供さんが持っていた小学生の問題集を見せてもらったのですが、開いたページがいきなり横文字の問題が・・・。小学生でも英語の勉強してるんだと何気に見ていたらこの意味が分らない。
To be to be ten made to be.
なんの言い回しだろうかと・・・こんな問題を小学生が習っているのかと驚きと自分のレベルの低さに愕然(がくぜん)として落ち込んでしまいました・・・と恥をさらしたところで今回のテーマに入ります。
今年の春頃から「トウモロコシから作ったポリエステルがあるのか?」とか「サトウキビからポリエステルが作れるのか?」「トウモロコシから作られる糸はポリ乳酸繊維ではないのか?」という質問が増えてきています。生産サイドでは植物由来のポリエステル繊維がちょっとした流行(はや)りになっているのかもしれません。
植物由来の合成繊維というとポリ乳酸繊維がよく知られていて、イメージ的に“トウモロコシ”から作るのはポリ乳酸繊維という認識が強くなっているので、トウモロコシからポリエステルが作れるのかという疑問を持たれてしまうようです。
ポリ乳酸繊維は植物のデンプンから発酵させて造った乳酸を繊維化したもので、代表的な原料として“トウモロコシ”や“サトウキビ”が使われています。原料も植物でさらに土に戻せば生化学分解で、自然に帰る地球にやさしい環境配慮型素材として注目されるようになったのです。
一方で、デンプン以外の糖質からエチレングリコールや1,3プロパンジオール(トリメチレングリコール)を作りテレフタル酸と共重合させて、ポリエステルを造ることも可能なのです。
植物由来ではあるものの、テレフタル酸は石油原料から取り出すので、ポリ乳酸繊維のように生化学分解作用も働きにくく、いまひとつ環境に配慮した印象を与えていないのですが、とはいえ100%化石資源の石油から造っているポリエステルと比較すれば地球環境にはかなり貢献していることになります。
この植物から取出す糖質を“トウモロコシ”に限定すると「トウモロコシから作ったポリエステル」と表現することは 可能なわけで、同様に「サトウキビから作ったポリエステル」も可能ということになります。
植物由来とはいえ糖質も種類の異なるものが作り出せるので、エチレングリコールから造り出したものはテレフタル酸と共重合させてPET(ポリエチレンテレフタレート)に、1,3プロパンジオールから造り出したものはテレフタル酸と共重合させて PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)になります。植物由来のポリエステルも種類があるのです。ということで、質問の答えとしては「トウモロコシやサトウキビから作られる植物由来原料のポリエステルはあります」ということになります。
植物由来のポリエステルは環境配慮型素材と書きましたが、原料生産時や廃棄の時には CO²(二酸化炭素)を排出しているので、温室効果ガス削減には貢献していない印象を持たれてしまうのですが、植物由来の商品に関しては“カーボン ニュートラル”という考えに成り立って環境配慮型素材に分類されています。
“カーボン ニュートラル”とは直訳すれば“炭素 中立”となり、生産時や廃棄時には CO²を排出するものの、原料として使われるまでに大気中の CO²を吸収しているから同等ですよという考え方になっています。厳密にいえば吸収と排出がイコールということはないのですが、ほぼチャラですよという考え方をしています。
となれば、繊維の分類でパルプやリンター(綿花の残り繊維)から作られる再生繊維(レーヨン キュプラなど)や半合成繊維(アセテート トリアセテートなど)も“カーボン ニュートラル”の考え方に見合うことになりますので、環境配慮型素材ということになります。2011.3.11 の大震災での原発事故以降、地球温暖化防止の声が小さくなってしまいましたが、再生エネルギーだけでなく“カーボン ニュートラル”の考え方にも注目が集まってきています。繊維業界でもこの考え方に基づいた物造りが見直されてきています。
ということで今回の原稿は終わりたいと思いますが、冒頭に書いた小学生の問題・・・問題集の答えを覗いてみると
飛べ 飛べ 天まで 飛べ。
という解答になっていました・・・何か変な気が・・・もう一度問題集を見ると小学生高学年向け ローマ字ドリル・・・。
人間、思い込みはしくじりの素(もと)という教訓です。
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