2013/12/30
No. 7 「ポリエステル 100% ストレッチ織物はどこまで伸びる…」
思いつきラボ
2014/05/30
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2014年5月30日時点の内容です。
前号で公開講座の時に使用している資料をもとに繊維の基礎的な話をテーマにしたのですが、雑学話が多くなってしまい、天然繊維の植物繊維のところで終わってしまいました。新人向けですが中堅クラスにも筆者の年代の者が教わってきたことや経験したことなども知ってもらいたいので、このコラムを利用して伝えておきたいと思っております。
意外にも知り合いの同年代の人からも「続きを早めに書いておいてくれ」と反応があり、勉強熱心だなと思って「役に立っているなら嬉しいです」と連絡したところ「結構 飲み屋でうけるんだよ」という返事が・・・理由はともあれ、思いつきラボのコラムを読んでいただき感謝しております。
今回は天然繊維の動物繊維のお話です。
動物繊維で家庭用品品質表示法の指定用語で定められているのは“毛”と“絹”になります。以前はこれだけだったのですが、現在では“毛”の分類表示も認められています。認められている“毛”は、羊毛・アンゴラ・カシミヤ・モヘヤ・キャメル・アルパカの6種類、でその他の動物は“毛”となります。羊毛は字の通り ひつじ で、アンゴラは うさぎ、カシミヤとモヘヤは やぎ、キャメルとアルパカは らくだ の種類になります。テレビコマーシャルでお馴染みのアルパカは らくだの仲間なのです。
モヘヤはアンゴラ山羊の毛で、アンゴラ兎と区分するためモヘヤという呼称になっています。アンゴラは地名に由来するのですが、現代社会ではインターネットですぐ調べられるので「アンゴラ」と検索すると「アンゴラ共和国」が出てきます。アフリカの国なのですが、1975年(昭和50年)に独立した国家なので、当然もっと昔からアンゴラやモヘヤは存在していたことを考えればアフリカのアンゴラではないことが分かります。
アンゴラはトルコの首都アンカラのことで、ローマ帝国時代はアンゴラと呼ばれていたことに由来するそうです。もともとはヨーロッパとアジアの境目くらいに生息する動物なのです。
その他の動物の“毛”にはどんなものがあるかといいますと、ヤク(うし)・ビキューナ(らくだ)・カシゴラ(やぎ)・ラクーン(たぬき)などがあり、指定外繊維の表記になります。ヤクの毛は、牛なのになぜかカシミヤ山羊の毛に似ているのです。ビキューナは希少なのでとても高価な製品となります。カシゴラは名前から推測できるように、カシミヤ山羊とアンゴラ山羊の掛け合わせです。ラクーンはたぬきなのですが、アライグマの毛もラクーンと呼ばれることがあります。ただ国際的にはラクーンはアライグマのことを指すようで、たぬきの毛は使われることが少ないようです。
もうひとつの動物繊維“絹”は、天然繊維では希少なフィラメント糸です。蚕の種類にもよりますが、1匹の蚕からおよそ1,000m前後の糸が採取できます。絹を構成する成分は、フィブロインとセリシンの2種類のタンパク質から成り立っています。フィブロインが芯になって、外側をセリシンが覆った形状になっています。絹を染めるときにはこのセリシンを除去してから染色します。セリシンがあると発色性が悪くなるので取り除くのですが、この工程を精練(せいれん)と呼びます。繊維業界でよく耳にする精練とはもとは絹の染色の前工程のことなのです。
繊維の染色工程では不要のセリシンなのですが、化粧品業界では貴重な成分として取り扱われています。というのもセリシンは人間の皮膚細胞に近いタンパク質であることが分かっており、美白や保湿に高い効果を示しています。絹は紫外線に変色するといわれていますが、紫外線を吸収することで色が変わるので、その意味では紫外線防止効果も高い繊維なのです。
絹に関する紛らわしい話をしておきますと、絹糸のことを“生糸(きいと)”と呼びますが、化合繊の業界では“生糸”を「なまいと」と読み、長繊維で仮撚加工をしていない糸のことを意味します。綿糸でも加工前の糸を「なまいと」と呼ぶことが通常の会話で使われています。耳で聞けば間違えることもありませんが、文字で判断すると取り違えることがありますので、注意が必要となります。また“真綿(まわた)”も精練した絹を引き伸ばして綿状(わたじょう)にしたもののことで、“綿”という文字で綿(めん)と勘違いされることが多くあります。
この文章を書いていても判るように、“綿(めん)”と“綿(わた)”が同じ漢字を使用していることがそもそもややこしくしているのです。
“綿(わた)”には絹ワタ(きぬわた)も綿ワタ(めんわた)合繊ワタ(ごうせんわた)もあるのですが、“真綿”は絹のワタのことなのです。 繭から生糸を取り出すのですが、高温のお湯で繭の絡まっている糸をゆるめながら数本の糸をまとめて1本の糸にしていきます。
1本ごとは微妙に太さにバラツキがありますので、数本を束ねることで平均化が図れます。5~6個をまとめたものが14中(なか)というのですが、昔からの絹糸独特の番手表示と思っていたところ、実は平均14デニールという意味になるとのことです。絹糸の太さはフィラメント糸ですので、デニールで表わされるのですがいつの頃からこのような表現になったのかはよく分かっていないようです。7~8個のものを21中(なか)、9~10個のものを28中(なか)と呼びます。1デニールは1グラムが9000メートルのときの太さで規定されています・・・といわれても太さのイメージができないかも・・・。
ともかく「シルクロード」という古代からの交易路から分かるように、絹は紀元前より貴重な繊維として扱われていたのです。ビジュアル要素としては、鮮やかな発色性と光沢性さらにしなやかさが特徴になります。機能面では吸湿性がよくベトツキ感がなく糸が細いのに強度があり、風合いも柔らかく肌に馴染みやすいのです。筆者は快適性素材の開発を担当していた時期もあるのですが、どれだけ数字的に快適な素材ができて着用テストをしてもらっても、当時の有名な登山家たちは必ず下着類は絹製品を身につけていました。冒険家にとってはシルクに勝る素材はないのかもしれません。
これで取扱いが簡単で価格も手頃になれば・・・と思うのですが、高級感も“絹”の特徴なので高嶺の花の存在でちょうど良いのかもしれません。シルクの話をしているだけで高貴な気分になれるので、気分の良いところで今回は終えたいと思います。
また「飲み屋でうけた」でも構いませんので感想やご意見もお寄せください。
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防災・安全評価グループ グループ長
竹中 直(チョク)
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