2021/05/01
第17回 : スポーツ用品公正競争規約について
アパレル散歩道
2020/11/15
2020.11.15
今回も前回の続きで、「企画・設計不良」について紹介します。前回は、「1.2染色関連」「1.3物性関連」を取り挙げましたが、今回は「1.3縫製仕様関連」の事故例を3件紹介します。
1.3縫製仕様関連・・縫製仕様の不適正
事例1. スラックスの縫い糸切れ
(事故の概要)
(取扱い表示)
(事故現象に関するコメント)
まずスラックスのシルエットですが、最近はスリムなデザインが流行していますね。このため縫い糸切れのリスクは高まっているといえます。着用中の縫い糸切れは、本生産で縫い糸張力の不適正や縫い糸間違いでも発生しますが、企画時の縫製仕様のミスマッチでも起こるので要注意です。どの程度生地が伸縮するかなど、素材特性をよく把握し縫製仕様を決定しなければなりません。特にストレッチ織物を縫製するとき、本縫いにするか、環縫いにするか、また伸び止めテープを併用するかなど、縫い仕様と縫い糸強度を考慮した仕様決定が望まれます。では、ここで、縫い目形式と縫い糸について、少し勉強しましょう。縫い目形式と特徴は表1の通りです。
次に、ミシン針と縫い糸について少し勉強しましょう。
縫製する生地によって、ミシン針や縫い糸の太さは変わります。薄いジョーゼットのようなブラウスを縫製する場合は細い針と細い縫い糸を使用し、生地厚のデニムを縫う時は太い針と太い縫い糸を使用します。表2にミシン針・ミシン糸と縫製生地の関係を示しました。
・ミシン糸には、スパン糸(紡績糸)とフィラメント糸があります。また、一部にコアスパン糸もあります。その選択は、生地と外観とのマッチング、用途的に強い縫い糸強さが必要かなどで決まります。
・縫い糸の番手は、数字が大きくなると、縫い糸は細くなります。
・ミシン針も太さは番手で決まりますが、糸と違って数字が大きくなると針は太くなります。間違わないようにお願いします。
・地糸切れ対策として、針の先端が丸いボールポイントタイプや細身のタイプの針もあります。
(事故要因と対策)
さて、縫い目形式、縫い糸、縫い針の説明がすこし長くなりましたが、改めてスラックスの縫い糸切れの原因と対策に話を戻しましょう。
・本縫いはステッチ構造から基本伸びにくい。ストレッチ素材の場合、特にパンツなど伸びの大きい部分は、縫い糸切れのリスクが高くなる。設計時に素材の伸び率を考慮し、シルエット、縫製仕様、縫い糸種(糸強度、糸伸度)、差動送り機構を適切に選定すること。
・本縫いで対応するのであれば、強度のあるフィラメント系の縫い糸を使用する。
・伸縮の大きい素材の場合、環縫いであっても、伸び止めテープなどを一緒に縫い込む。
・本生産にあたり、縫製見本を限界まで思い切り引っ張り、縫い糸が切れないか確認する。
事例2.ダウンジャケットの縫製仕様(羽毛吹き出し)
(事故の概要)
(取扱い表示)
(事故現象に関するコメント)
代表的なダウンジャケットを図4に示します。羽毛は水鳥(アヒルやガチョウ)の胸毛から採取された天然素材であり、図5のダウン(ボール)、フェザー、ファイバーで構成されます。ファイバーはこの写真にはありませんが、ダウンからちぎれた一本の繊維のことです。
ダウンは真ん中の核から手のひらのように羽枝がたくさん広がった構造を持っています。羽枝を広げた羽毛同士が集まると多くの空気を保持でき、それが保温層(デッドエア)となり保温力を保ちます。羽毛の羽枝は柔らかいが復元性に優れ、軽量で空気を多く含むため、かさ高に優れています。また吸放湿性にも優れ、ダウンの混合率の高い羽毛製品がより暖かく快適であるといえます。
(事故要因と対策)
・実際の羽毛の吹き出しの事故を分析すると、ダウンからちぎれた「ファイバー」が縫い目から吹き出したり、スモールフェザーの羽軸が生地を突き破った状態になっているケースが多くみられる。
・羽毛の混合率について ファイバーの混合率が高い原毛は、吹き出しのリスクが大きいため、調達時には混合率の分析を検査協会で実施すること。時として中古の羽毛が使用されていることもあり、その場合はファイバーなどが多い可能性がある。
・生地のダウンプルーフ性能は、一般に生地の通気性で管理される。(一般基準:1.0cc以下/cm2・秒)
ダウンプルーフ加工とは、生地を高温で高圧のローラーに通して、目つぶし効果で通気性を一定に下げる加工である。この通気性が、ロット間、ロット内、反間、反内でも、ばらつきがないことが大切です。
・ダウンプルーフ性の耐久性は重要であり、洗濯後の通気性も評価すること。密度の粗い生地をカレンダー加工で無理に目潰しして通気性を抑えているダウン用素材では、洗濯や着用時の揉みで、通気性が大きく復元するケースもある。場合により、羽毛吹き出しで回収もありうる。
・羽毛製品の製造は、基本的には表裏ともにダウンプルーフ性のある生地で座布団状の各パーツを作り、これを合体する方式である。このとき、座布団状パーツ端は、本縫いだけでなく、かがり縫いを施し、縫い目からの吹き出しを低減しておくことは大切である。
・羽毛の偏りを防ぐ羽毛隔壁用のステッチ縫製では、生地特性を踏まえて、細い縫い針を検討したり、スパン縫い糸などを検討し、縫い目穴からのファイバーなどの吹き出しを低減させること。縫い糸ディーラーに相談されることをお勧めします。
・特にダウンジャケット二層品では、先発製品で羽毛吹き出し試験を実施することがリスク低減になる。
・着用・洗濯・保管について、適切な「注意文章」を付ける。
事例3. スカート裏地の縫製仕様(縫い目パンク)
(事故の概要)
(取扱い表示)
(事故現象に関するコメント)
最近の衣料品は、カジュアル化が浸透しています。衣料品のカジュアル化といえば、具体的には、表地のソフト化や軽量化、シルエットのスリム化、また場合によっては芯地や裏地の省略が考えられます。また縫製では、仕様の簡素化が挙げられます。
(事故要因と対策)
・縫い代の設定に関して、商品設計時に、裏地の縫い代巾が浅かった可能性が考えられる。縫い代は10mm以上は欲しい。
・縫い代のほつれ防止に関して、縫い代が十分あっても、切りっぱなしでは洗濯や表地の紡毛織物と擦れて、生地糸が抜けて、実質的に縫い代が少なくなる。オーバーロック処理をしてほつれを防ぐことが大切である。
・表地のパターンに対して、裏地パターンが小さいと、裏地の縫い目に過度な力がかかることが予想される。
・裏地などは、長年使用している継続生地が多い。長年使用している裏地でも、「※サイレントチェンジ」により知らないうちに規格が甘くなっていたり、加工方法が変更されている場合もあるので、継続素材も適時チェックされることをお勧めします。特に海外調達生地は要注意です。
・今回の事例は、消費者の取扱い時の柔軟剤の過度の使用も考えられるが、縫製仕様やパターンの要因も否定できない。着用テストなども実施できる環境づくりが大切である。
次回コラムは、「企画・設計不良 その3」として、1.4二次加工関連、1.5安全関連を取り挙げます。
コラム : アパレル散歩道⑧
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 品質事故例の紹介 ~企画・設計不良 その3~
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事
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