思いつきラボ

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No. 163 「衣服内気候とスポーツウェア素材の原稿の紹介です…」

2020/06/30

繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。

※2020年6月30日時点の内容です。

                 

今回の思いつきラボはお知らせからの書きはじめになりますが 原稿を担当させてもらってました筆者が6月30日をもちまして退職することになりましたのでこのコラム原稿が最終回となります。当方の退職は以前より決まっていたことなので 急な話ではなかったのですが思いつきラボでは予告もなく最終回を迎えることになり唐突な印象を与えることになってしまいました。号数がNo.163ということなので163話お付き合いいただいた方もいらっしゃるのでありがたいことと思っております・・・なにかこのまま書いていると 謝辞だけで原稿が終わってしまいそうですので今回のテーマに入りたいと思います。

                   

2013年10月に思いつきラボはスタートしているのですが 原稿の内容に質問やご意見も多くいただきました。その中で素材に関する快適性やスポーツ競技ウェアに求められる要素など 筆者が紡績会社時代にスポーツウェア向けのニット生地開発を担当していたこともあり問合せをいただくこともありました。今回 最終回となりますので筆者の37年前の原稿を紹介したいと思います。「衣生活研究」という本の1983年12月号と1984年1・2月合併号になります。

「衣生活研究」表紙と「衣服内気候を科学する」1ページ目

「衣生活研究」表紙と「スポーツウェアを科学する」1ページ目

当時 筆者は東洋紡のフィラメントニット課に所属しており 総合研究所の原田隆司研究室で進められていた「衣服内気候」理論に合うスポーツ向けニット生地の開発を担当していました。人間の肌と衣服の間の温度 湿度 気流を測定して人間が快適と感じる衣服内の環境をつくれるウェア用の生地開発ということになります。今では衣料の分野でも「快適工学」の研究は当たり前のようになっていて 発熱素材や冷感素材などで季節に応じた一般衣料も多く市場に出回っています。

                        

とは言うものの衣服内気候理論は三層構造でダブルニット編機担当とはいえダイヤル針側とシリンダー針側の二層・・・だからダブルニットなのですが 表と裏の間に30デニールの分繊糸を使用したり プレーティング技法を用いたり・・・ちょっと専門用語が多めになってしまいました・・・いろいろと思いつくままに試行錯誤で試験編立をしました。徐々にコツみたいなものが掴(つか)めてきて 測定値も範囲内におさまる生地もつくれるようになったのです。もちろんスポーツウェアに要求される快適要素は衣服内気候だけではありませんので当時の考え方を紹介します。

                 

スポーツウェアの快適性・・・ 

スポーツウェア素材における快適性の諸要因としては


     ・衣服内気候
     ・衣服圧
     ・肌ざわり
     ・軽量
     ・耐久性
     ・衛生・安全性
     ・ファッション性


などが考えられるとして 生理的要因の高いものと心理的要因の高いものがあり スポーツ種目によってはもちろんのこと 環境条件の違いや着装状態によっても快適性要因の優先順位は異なってきます。

     

衣服内気候とは皮膚と衣服との間の微空間のことで 温度・湿度・気流より構成されています。

     温度 32±1℃
     湿度 50±10%RH
     気流 25±15cm/sec

の条件を満たす範囲が「快適域」と考えられています。

      

衣服圧は皮膚の伸縮によって衣服が弾性変形をおこし 身体を圧迫する接触圧のことをいいます。衣服圧が高くなれば圧迫感等の不快感をもつということになります。スポーツウェアのストレッチ性を考えるときには皮膚伸びとの適性が必要になります。

                      

肌ざわりとは皮膚と衣服が接触する際の人間の感覚で接触感と接触冷温感が主要因と考えています。接触感とは布の力学特性を官能的にとらえたもので

     ・曲げ特性
     ・せん断特性
     ・圧縮特性
     ・引っ張り特性
     ・摩擦特性

などを数値でとらえることで快適域を探ります。接触冷温感とは皮膚が布に触れた瞬間に感じる冷感・温感のことで皮膚から布への熱の移動量と速さが問題になります。その主な要因は

     ・環境温度・布の温度
     ・環境温度・布の水分量
     ・接触圧
     ・表面形態(例:起毛)
     ・素材

などが挙げられます。

                     

軽量とはウェアの重量で判断できますが デザインが同じであれば素材目付によって異なることや スポーツでは汗を掻くことが前提となりますので吸汗発散性による保水性によっても重量差が生じてしまいます。耐久性はスポーツウェアの洗濯頻度の多さや使用環境の過酷さによる劣化などを考慮することは必要となります。衛生・安全性は特殊な状況下での危険から身を守る身体保護対策の考慮が必要なことと 発汗による細菌の増殖を抑えることなどへの対応機能となります。ファッション性は競技者の嗜好性が高いものが心理的快適性につながりますので物理的機能に影響のない範囲では必要なものになります。

                   

当時のスポーツウェアに対する素材開発は紹介した 7つの要因を基本として進められました。こうやって改めて記述しても現在でも充分通用する考え方のような気がします。思いつきラボ 最終回にあたって筆者が繊維専門誌から初めて依頼を受けた原稿の紹介になりました。いままで定期的に読んでいただいた方 ネット検索でたまたま思いつきラボの原稿にたどりついてしまった方 いずれにせよお読みいただきありがとうございました。筆者は2011年2月にニッセンケンにお世話になったのですが 3月に東日本大震災が起こり そして今は新型ウィルスによる疫病災害とその他にも大きな被害をもたらした自然災害も多く発生しました。その都度耐えながらまた新しい生活に取組ながら過ごしています。いましばらく不自由な生活が続きますが楽しい時間があたりまえに戻ってくることを願っております。筆者の好きな言葉にユーミンの歌詞の一節があります。

                

“・・・時はいつの日にも 親切な友達 
         過ぎてゆくきのうを 物語にかえる・・・”

             

思いつきラボとのお付き合い 本当にありがとうございました。

                   

原稿担当:竹中 直(チョク)

お問い合わせ
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
竹中 直(チョク)

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp

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