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アパレル散歩道 第81回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑨」

2025/10/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第80回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめています。

2025.10.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第80回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第80回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    30紳士スラックス
    (毛100%)
    てかり
    • ウールの特性もあり、摩擦によって素材の表面が平板化し光沢が変化した
    素材特性
    31ブルゾン
    (表地:N100%タフタ
    裏地:C100%ニット)
    カーリング
    (表地と裏地の
    収縮差)
    • 表地と裏地の収縮差が大きかった
    • 消費者の取り扱いミス(タンブル乾燥など)
    企画ミス
    消費者
    32綿パンツ
    (綿93%
    ポリウレタン7%)
    縫い目糸切れ
    • 伸縮織物を本縫いで縫製したため、縫い糸切れが発生した
    • 消費者のサイズ適合性
    設計ミス・生産管理

    消費者
    33チェック柄シャツ
    (毛100%)
    フェルト化縮み
    • ウール特性で、摩擦によりフェルト収縮した
    • 着用や洗濯で、過度な摩擦が生じた
    素材/染料特性

    消費者


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例34ジャンル服種状態
    カジュアルシャツ塩素系漂白剤の使用で色あせが発生した
    綿100%のブルー色のシャツを家庭洗濯したところ、裏面も含めて全体に色あせが発生した。それまでに数回家庭洗濯をしたが問題はなかった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。製品の取扱い表示では、塩素系漂白剤不可、酸素系漂白剤可であった。後日の聞き取りで、消費者が塩素系漂白剤を使用していたことが判明した。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「家庭洗濯」「全体の変色」「漂白剤」です。
    • 「裏面も変色」とあることから、日光やガスなどの影響ではなく、水中で発生した何らかの変色現象と推察されます。
    • 漂白剤には、汚れなどの色素を分解して白くする効果があり、白物衣料用の「塩素系漂白剤」と色物や柄物衣料用の「酸素系漂白剤」があります。また販売量は少ないですが、赤土汚れなどを落とす「還元漂白剤」も販売されています。(第52回アパレル散歩道「4. 漂白剤による変退色」参照)
      赤土が赤いのは、赤い酸化鉄が含まれているからです。
      これを還元することで酸化鉄は鉄に戻り、脱色されます。
      図1.
      漂白剤関連の取扱い表示
      左から漂白剤処理不可、酸素系漂白剤処理可、塩素系及び酸素系漂白剤処理可
    • 一般に、綿などのセルロース系繊維製品は、漂白剤で変色しやすい傾向があります。

    表2. 漂白剤の種類と用途
    種類用途
    酸素系塩素系漂白剤シーツや下着など白物が中心
    酸素系漂白剤色物、柄物が中心
    還元系漂白剤赤土の泥汚れなど

    表3. 《事例34》「漂白剤による変色」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 変色の原因を絞り込むため、変色発生場所、裏面の状況、変色の程度を目視で確認する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、着用状況、洗濯状況、漂白剤の使用有無などを聞き取る。
    商品に関する調査
    • 製品の要因を確認するため、生地の染色堅ろう度を確認する。
    原因の推定
    • 今回の場合、消費者が誤って塩素系漂白剤を併用したことにより変色した。
    対策
    • 消費者が適正な取り扱いができるよう、適時漂白剤に関する付記表示をおこなう。
    • 取扱い表示は、引き続き塩素系漂白剤は不可とする。
    他に発生しやすい要因
    • カビ取り剤などが付着すると同様の色あせが生じることがある。カビ取り剤の成分は、塩素系漂白剤と同じ次亜塩素酸ナトリウムであることが多い。
    • 酸素系漂白剤を使用して長時間漬け置き洗いすると、同様の色あせが生じることがある。

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    事例35ジャンル服種状態
    カジュアルブルゾン1シーズン保管していたら
    ファスナーが褐色に変色した
    ウール100%の前開きニットブルゾン(白色)を、購入してそのまま1シーズン保管していたら、前立てファスナーに接する部分が褐色に変色していた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。前立ては金属ファスナー仕様であった。
    図2.金属ファスナーの例
    図2.
    金属ファスナーの例

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「ウール100%素材」と「白色」、そして「金属ファスナー」です。
    • 今回の原因は、還元漂白と金属副資材の組み合わせの要素が高い。
    • 生機を白色に仕上げるには、染色準備として漂白するのが一般的です。その際、綿製品などでは酸化漂白剤が一般に使用されますが、ウールや絹では還元剤漂白剤(ハイドロサルファイトなど)が使用されます。

    表4. 《事例35》「金属による変色」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 金属ファスナーの要因を確認するため、変色が発生した部位は、ファスナー付近以外にもあるか、目視で調査する。
    商品に関する調査
    • 金属ファスナーの要因を確認するため、金属の成分などを副資材メーカーに聞き取る。一般的に金属ファスナーの務歯の材質は、銅合金やアルミ合金である。
    • 素材要因を確認するため、ウール素材の漂白工程で、還元剤※1が使用されたか、後処理は十分かを聞き取る。
    原因の推定
    • 還元漂白剤は、染色工程で中和やソーピング(洗浄)により除去されるが、中和不足やソーピング不良によって、残留したハイドロサルファイト※2から硫化物が生成し、それから生じた硫化水素が金属ファスナーと反応し、付近を黒褐色に変色した。
    確認試験など
    • 未変色部の生地と金属ファスナーを組み合わせて、洗濯試験や高温加速試験を実施する。
    対策
    • 染色加工で還元漂白剤が残留しないよう、染工場に要請する。
    • 金属ファスナーは、樹脂コーティングされたものが望ましい。
    • 企画上可能ならば樹脂タイプのファスナーに変更する。
    ※1 
    還元とは、物質から酸素が奪われる反応、または物質が水素と化合する反応のこと。この機能を持つ薬剤を還元剤という。
    ※2 
    ハイドロサルファイトの化学式はNa2S2O4で、分子内に硫黄(S)を含む。還元性が強く、繊維業界でも、代表的な還元剤や漂白剤として幅広く用いられる。ポリエステル染色の還元洗浄(Reduction Cleaning、RC)にも使用されている。

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    事例36ジャンル服種状態
    紳士服パンツクリーニング後に確認したら
    縫い目に沿って光沢が生じていた
    ウール100%スラックス(濃紺色)をクリーニングに出して、戻ってきた製品をよく見ると、脇の縫い目に沿って、光沢が生じていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。 製品の取扱い表示は、水洗い不可、タンブル乾燥不可、アイロン(150℃限度)可、ドライクリーニング(P)可、ウェットクリーニング不可であった。
    図3. パンツの製品イメージ
    図3.
    パンツの製品イメージ

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「ウール素材」「脇の縫い目部」「光沢発生」「クリーニング」です。このことから、クリーニング仕上げ時のアイロンやプレスあたりが推定されます。
    • 「あたり」とよく似た現象に「てかり」があります。光沢変化に差異はないですが、発生過程に違いがあります。以下の「道しるべ」をご参考ください。
    ≪あたり≫
    縫い目に沿った縫い代の厚み部分で、アイロンやプレス掛けで強く押し付けられたために生じた光沢変化。
    ≪てかり≫
    着用時の擦れや引張りなどにより、厚みが減少し平板化することによる光沢変化。(第80回アパレル散歩道「事例30 てかり」参照)

    表5. 《事例36》「あたり」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 発生のメカニズムを確認するため、光沢変化はどの部位で発生しているか、縫い目付近以外でも発生しているかなどを目視で調査する。
    商品に関する調査
    • 素材は毛100%か、混紡か、生地組織は織物かニットか、糸使いはどうかなどを素材メーカーに聞き取る。
    クリーニング業者への聞き取り
    • クリーニングの仕上げに使用したアイロンやプレスの条件を聞き取る。
    原因の推定
    • クリーニング時のスラックス脇部のアイロンやプレス仕上げで、縫い代部分の押し圧が強かったり、温度が高かったことにより、生地が平面化し、光沢が発生した。
    • あたりが目立ちやすい濃色品であった。
    確認試験など
    • 顕微鏡で、光沢発生部と未発生部の生地表面外観を観察する。
    • 一定のプレス条件(圧力、温度、時間)で、再現試験をする。
    対策
    • 企画段階で、プレス試験を実施し、あたりの発生しにくい素材を検討する。
    • クリーニング店や消費者向けに、過度な条件でアイロン掛けしない、当て布を勧めるなどの情報を付記表示で発信する。

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    事例37ジャンル服種状態
    カジュアルパンツ1シーズン着用していたら
    ひざ部が膨らんでしまった
    綿パンツ(綾織)を1シーズン着用していたら、ひざ部が膨らんでしまった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。製品の組成は、綿95%ポリウレタン5%であった。
    図4. ひざ部の膨らみの例

    図4.
    ひざ部の膨らみの例


    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「ひざが膨らむ」「ポリウレタン混の織物」です。
    • 衣料品のひざ部などが着用中に膨らんで、洗濯後も戻らない現象をバギングといいます。「ひざ抜け」とも呼ばれます。時として、スカートの尻部でも「尻抜け」が発生することもあります。
    • バギングの発生のしやすさは、素材の伸長回復性や製品パターンなどに関係します。

    表6. 《事例37》「バギング」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 原因絞り込みのため、ひざ抜けの程度はどうか、ひざ部以外に同じ現象はないか調査する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、製品のパンツとサイズ感(適合性)を聞き取る。
    • 消費者要因を確認するため、使用頻度、洗濯方法を聞き取る。
    素材メーカーへの聞き取り
    • 素材要因を確認するため、当該生地(綾織)の糸使い、組織、密度、加工方法などを聞き取る。
    原因の推定
    • 着用中の繰り返しの引張作用で、伸長弾性率が低下し回復性が低下し、ひざが抜けた。特に人間のひざ部は屈伸すると、ひざ部の皮膚は大きく伸びることが報告されている。
    • 綾織物は組織糸の交絡が少ないため、伸びやすかった。
    • ポリウレタン糸混用の素材のため、伸長回復性が低かった。
    発生しやすい素材
    • 一般に密度の粗い織物やニットなど、伸長弾性率の低いものにバギングは発生しやすい。
    • ポリウレタンを混用した伸縮素材はフィット性には優れるが、長期着用で回復性が低下し、バギングは発生しやすい。
    • 合繊素材生地より、天然素材生地の方がバギングは発生しやすい。
    確認試験など
    • JIS L 1061「織物及び編物のバギング試験」を実施する。図5のように、ひざ部の屈曲を再現した機器に試験片を取り付け、繰り返し屈曲させる試験です。
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の伸長回復率試験B-1法を実施する。
    対策
    • 上記「確認試験」に記載の試験や実着用試験を実施し、バギングが生じにくい素材を選定する。
    • 設計時に、製品のシルエット、生地の伸長回復性、製品用途を考慮し、可能ならば裏地の変更などを検討し、負荷を低減する。
    • 付記表示で、「着用によりひざが伸びて、ふくらむことがあります」などと、消費者に情報提供する。

    図5. バギング評価試験機
    図5. バギング評価試験機(当財団 大阪ラボで試験可能)
    試験規格としては、JIS L 1061「織物及び編物のバギング試験方法」です。黄色い線で囲った鉄の棒部分に試験布を巻き付け、この鉄棒がクネクネ動作することにより、“ひざやひじの屈伸運動を再現する”というイメージの試験です。

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    ~大阪・関西万博 2025 訪問記 その5!~
    「大阪・関西万博2025」も終盤になりました(10月13日にフィナーレ)。今年の厳しい暑さもようやく収まりましたが、秋の気配はまだまだ見えません。いよいよ万博レポートも終盤です。今回もご覧いただければ幸いです。

    第1回 大阪・関西万博2025訪問記~地元大阪で開催中の万博に行ってまいりました!!~
    第2回 大阪・関西万博2025訪問記 その2!~いろいろな展示とパビリオンの紹介~
    第3回 大阪・関西万博2025訪問記 その3!~大雨にも負けず、熱波にも負けず、初夏~
    第4回 大阪・関西万博2025訪問記 その4! ~夕方の大阪湾の海風に癒されて~


    第5回
     大阪・関西万博2025訪問記 その5! ~秋の気配はまだ見えませんが…~

(第82回 アパレル散歩道の予告 – 2025年11月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の10回目として、以下の事例38~41を取りあげます。どうぞご期待ください。
  • 事例38. 「バブリング」
  • 事例39. 「塩素による色あせ(水道水)」
  • 事例40. 「プリーツ消える」
  • 事例41. 「ちくちく感 首筋」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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