アパレル散歩道

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第68回 : 「テキスタイルと静電気に関する性質」

2024/09/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
繊維は一般的に電気絶縁性が大きく、他の物体との摩擦によって静電気が発生することがあります。静電気の発生により、スカートが身体にまとわりついたり、ドアノブに 触れるとぱちっと放電したり、ほこりがつきやすくなるなどの現象が生じることがあります。

2024.9.1

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  1. 静電気に関する性質

    1. 静電気はなぜ発生する?
       繊維は一般的に電気絶縁性が大きく、他の物体との摩擦によって静電気が発生することがあります。静電気の発生により、スカートが身体にまとわりついたり、ドアノブに 触れるとぱちっと放電したり、ほこりがつきやすくなるなどの現象が生じることがあります。
       そもそも、繊維製品をはじめ金属製品を含むほとんどの物質は、物質中にプラス電気とマイナス電気を持っていて、通常はプラスとマイナスの電気量が釣り合った中和状態(電気を帯びていない状態)になっています。しかし、物質同士の摩擦などによって、電子の移動が生じ、プラスとマイナスの電気量のバランスが崩れると、たまった電気が「静電気」として帯電します。
      静電気

      電気的に中性
      生地A
      生地B
      ⊕⊕⊖⊖⊕⊕⊖⊖
      電気的に中性
      摩擦
      電子が移動
      (例:Bのマイナス電子がAへ)
      摩擦
      電子が移動
      (例:Bのマイナス電子がAへ)
      マイナスに帯電
      ⊖⊖⊖⊖
      ⊕⊕⊕⊕
      プラスに帯電

      図1 摩擦などによる帯電(静電気)のイメージ



        ≪静電気はなぜ発生する?≫
        生地と生地との摩擦などによって、電子の移動が生じ、プラスとマイナスの電気量のバランスが崩れて、たまった電気が静電気として帯電します。


    2. 繊維と静電気
       水や水分の電気伝導性は、繊維に比べると大きいため、公定水分率の大きい綿や毛などの天然素材では帯電しても外気へ放電して静電気は発生しにくいのですが、ポリエステルなどの水分率の小さい合成繊維では、いつまでも放電されずに静電気として帯電します。特に、空気の湿度が低下する冬期は放電しにくくなり、まとわりつきなどの静電気現象はこの時期に発生しやすいと言えます。
       また、ガソリンスタンドや化学工場では、静電気の放電による引火・爆発事故等の発生も懸念され、作業衣の静電気対策も安全上の観点から重要なものになっています。

        ≪電気伝導性≫
        • 電気伝導性とは、物質の電気伝導のしやすさのことです。導電性とも言います。電気伝導性の反対は、電気絶縁性となります。
        • 衣料用の繊維は、天然繊維であれ化学繊維であれ、基本的に有機高分子であるため、電気伝導性は低いと言えます。また、綿・毛などの天然繊維やレーヨンなどの再生繊維は、比較的公定水分率が高いため、放電しやすく静電気は発生しにくいです。
        • 合成繊維のナイロンは、公定水分率が4%であるため、0.4%のポリエステルに比べると、静電気は発生しにくい傾向があります。


    3. 摩擦帯電序列
       一般に繊維テキスタイル素材は、絶縁性が大きいため、摩擦などによって発生した静電気はそのまま帯電されやすく、これが「まつわりつき」、「パチパチ現象」「ほこりがつきやすい」などの現象につながります。
       また、その高分子構造により、摩擦でプラスに帯電しやすい繊維とマイナスに帯電しやすい繊維があります。そして、プラスに帯電しやすい素材とマイナスに帯電しやすいものが擦られると、より大きな静電気が生じることになります。しかし、プラス同士やマイナス同士の素材の摩擦では、静電気は発生しにくいとも言われています。このことを理解していると、静電気対策の一助になることは間違いありません。
       図2に主な繊維素材の摩擦帯電序列を示します。

      マイナスに帯電しやすい
      プラスに帯電しやすい
      塩化ビニル樹脂
      アクリル
      ポリエステル
      アセテート
      綿
      レーヨンなど
      ナイロン
      ウール
      ガラス繊維

      図2 摩擦帯電序列の例



        ≪静電気の発生しやすい衣料・発生しにくい衣料の組み合わせは?≫
        ◇摩擦帯電序列より
      1. 発生しやすい衣料の組み合わせ例
        • スカート(ポリエステル製) × パンスト(ナイロン製)
        • ブラウス(ナイロン製) × カーディガン(アクリル製)
      2. 発生しにくい衣料の組み合わせ例
        • スカート(ポリエステル製) × 裏地(ポリエステル製)
        • カーディガン(ウール製) × ブラウス(ナイロン製)
        • シャツ(綿製) × ブルゾン(ポリエステル製)
        ≪素材の風合いと静電気の関係は?≫
        • 毛羽立った素材は、摩擦時に接触して擦れる面積が実質的に大きくなり、静電気は発生しやすいです。
        • 薄くて柔らかい布地も、接触面積が大きくなり、静電気が生じやすいです。逆に腰のある布地は、接触面積が小さく、静電気は生じにくいです。

  2. 静電気対策(制電)について
     一般のアパレル製品の商品企画では、静電気対策のためにテキスタイル材料を選定するのは、実質的に難しいかもしれません。生地染色加工の際に静電気防止加工(制電加工)を可能な限り実施したり、消費者から問い合わせがあれば、静電気が低減する着こなしや、市販の静電気防止スプレーなどを紹介することも可能となります。いくつかの対策を表1にまとめています。主に、静電気の発生しやすい合成繊維素材での対策が中心となります。
     また、工場などのワーキングウエアなどでは、現場の安全安心の視点から、静電気対策(制電)は要求性能の中でも大きな要素になることは間違いありません。

    表1 合成繊維製品の静電気対策
    手法方法説明
    繊維・糸での対策親水性繊維の混用親水性繊維である、綿、レーヨンなどとの混紡、混繊、交織をすすめる
    原糸改良
    特殊導電繊維の使用など
    (制電性素材)
    ポリエステル、ナイロン、アクリルなど疎水性合成繊維の内部に、親水性ポリマーを練りこむ(図3)
    (導電性素材)
    ポリエステル、ナイロン、アクリルなど疎水性合成繊維の内部に、金属、カーボン、導電セラミックなどの微粒子を挿入する(図3)
    染色加工での対策帯電防止剤の使用界面活性剤の使用によって、生地を親水化する。成分は主に、第4級アンモニウム塩 (カチオン性帯電防止剤など)である。
    表示での対策静電気防止スプレー市販スプレーなどを紹介する
    (成分はエタノール、界面活性剤、香料など)
    静電気序列に基づく着こなしの紹介静電気が発生しにくい、着こなしや組み合わせを消費者に提案する


      ≪静電気対策の考え方≫
      合成繊維は広義にはプラスチックに含まれます。一般のプラスチックと同様に、合成繊維は電気伝導性が低いため、帯電しやすいといえます。
      このため、表1に挙げた手法を使って、合成繊維を導電化することによって放電を促進させることが、静電気対策となります。
    図3 制電性繊維、導電性繊維のイメージ(繊維中の黒丸部が導電性物質)

    図3 制電性繊維、導電性繊維のイメージ
    (繊維中の黒丸部が導電性物質)

    図4 市販の静電気スプレーの一例
    図4 市販の静電気スプレー
       の一例
       (ライオン株式会社製)


  3. 静電気対策(制電)素材について
     繊維メーカーや繊維商社などでは、安全安心の切り口で、静電気対策(制電)素材の商品化は以前から行われています。近年、一般アパレル用途だけでなく、ワーキングウエア、ユニフォーム用などの作業服向けのテキスタイル素材もその必要性は増加しています。
     本稿では、商品化されている静電気対策(制電)テキスタイル素材の一部を紹介します。

    表2 静電気対策(制電)素材の例
    メーカー品名特徴用途
    帝人フロンティアラピア®制電剤練り込み繊維各種裏地用途など
    クラレクラカーボ®導電性カーボン練り込み繊維クリーンルームウェアーや安全防護衣
    東レルアナ®導電性微粒子(カーボンブラック)を筋状に配列したポリエステル繊維衣料全般用
    ユニチカトレーディングメガーナ®カーボン使用導電繊維スポーツウエア、ユニフォームなど
    東洋紡/日本エクスランノエール®制電ポリマーを練り込みアクリル繊維衣料全般、毛布など
    セーレンプリータ®導電糸ベルトロン®使用織物クリーンルーム用ウェアなど
    テックワンスターボ®耐久帯電防止加工アウトドア、衣料全般
    岐センスーパーコモレティック®耐久制電加工ユニフォーム全般
    小松マテーレマーバス®重合技術によるポリエステル繊維の親水化ユニフォーム、スポーツウエアなど


  4. 帯電性試験
     消費者が衣料を購入する際、その衣料品が、着用して静電気を生じやすいか、そうでないかは、店頭では判断することはまず難しいでしょう。ましてやネット購入では、なおさらです。その意味でも、アパレルメーカーが消費者に「静電気防止」や「制電」などを積極的にアピールすることは消費者にとってもメリットがあります。しかし、これらを表示する場合は、景品表示法の優良誤認(注1)や不実証広告規制(注2)にしたがって、JISなどの合理的な評価方法による帯電防止性能の優位性をしっかり確認する必要があります。

    表3 優良誤認と不実証広告規制
    項目意味
    優良誤認
    (注1)
    商品が事実と相違して、①実際よりも優良であると誤認させる、 ②他社の商品よりも優良であると誤認させること。
    不実証広告規制
    (注2)
    不実証広告規制では、事業者は表示内容が優良誤認にあたらないことを立証しなければならない。具体的には、消費者庁は事業者に対し、表示の「合理的な根拠」となる資料の提出を求めることができ、事業者は資料を15日以内に提出しなければならない。15日以内に提出しない場合、または提出された資料に合理的な根拠がない場合は、不当表示と見なされる。
    合理的な根拠の判断基準は、以下の2つである。
    ① 提出資料が客観的に実証された内容のものであること。
    ② 表示内容と提出された実証資料が、適切に対応していること。


    1. 帯電性の評価試験
       帯電性の評価は、JIS L 1094「織物及び編物の帯電性試験方法」で規定され、また、JIS T 8118では、静電気帯電防止作業服の帯電電荷量測定方法が規定されています。試験法の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。

      表4 各種の帯電性試験
      試験法規格説明
      半減期測定法JIS L 1094 A法織物及び編物の静電気減衰特性の評価に適する。実用特性としては衣服のまつわり付き及び/又はほこり付着の評価ができる。
      摩擦帯電圧測定法JIS L 1094 B法織物及び編物を摩擦したときの静電気電位の評価に適する。実用特性としては衣服のまつわり付き及び/又はほこり付着の評価ができる。
      摩擦帯電電荷量測定法JIS L 1094 C法導電性繊維を混入した織物及び編物を摩擦したときの静電気発生量の評価に適する。実用特性では、ほこり付着、放電障害などの評価ができる。
      摩擦帯電減衰測定法JIS L 1094 D法摩擦帯電圧測定法と摩擦帯電電荷量測定法とを組み合わせて改良した方法である。静電気の発生のしやすさ及び減衰特性を評価できる。実用特性は,衣服のまつわり付き、ほこり付着、放電障害などの評価ができる。
      帯電電荷量JIS T 8118作業服の静電気帯電に起因して発生する災害・障害を防止するため、生地に帯電防止織編物を使用して縫製した静電気帯電防止作業服の帯電電荷量を評価する。製品で評価される。


      図5 帯電性評価に用いられる試験機 (左から、半減期測定装置、摩擦帯電圧測定機、摩擦帯電電荷量測定装置)
      図5 帯電性評価に用いられる試験機 (左から、半減期測定装置、摩擦帯電圧測定機、摩擦帯電電荷量測定装置)



        ≪帯電性試験の考え方≫
        帯電性の試験は、表2のように用途により各種ありますが、おおむね生地や製品を摩擦させ、その帯電特性を評価しています。
        JISの物性試験が、20℃・65%RHで実施されるのに対して、帯電性試験は20℃・40%RHで実施されます。つまり、静電気がより発生する湿度環境で試験するように規定されています。


(第69回 アパレル散歩道の予告 – 2024年10月1日公開予定)

 次回は、『テキスタイルの特性を学ぼう』の9回目として、「テキスタイルの風合い」を取り上げます。アパレル業界に携わる立場から、テキスタイル素材の特性を勉強しましょう。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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