第32回 : 羽毛製品 ~ダウンジャケット~
2021/12/15
2021.12.15
PDF版をご希望の方はダウンロードフォームへお進みください > ニッセンケンウェブサイト ダウンロードサービス【アパレル散歩道No.32】
羽毛製品のひとつであるダウンジャケットは、防寒衣料の中でも、軽量で暖かいなど優れた性能で、独自の防寒衣料の地位を占めています。今回は、ダウンジャケットの性能や規格、設計について、ご紹介したいと思います。
-
ダウンジャケットの歴史
ダウンジャケットは、ジャケットの表地と裏地の間に水鳥の羽毛を詰めた保温商品です。世界的には寒冷地用衣料として、あるいは登山用衣料として古くから使用されていました。わが国で本格的に羽毛衣料が生産発売されたのは、1970年代後半からといってもいいでしょう。1980年代に第一次ダウンブームがあったのを筆者も記憶しています。我が国では、スキーウエアや登山ウエアはもちろん、冬期の一般カジュアル用防寒着としても汎用的に使用され、現在に至っています。
図1.代表的なダウンジャケット
-
ダウンジャケットの構造と種類
代表的なダウンジャケットを図1に示しています。お気づきのように、本体や袖に、一定間隔に横方向にステッチが入っているのがわかります。これは、詰め材として、羽毛を表地と裏地の間に入れると、羽毛は合繊樹脂わたのようにつながっていませんので、着用や洗濯時に、重力によって、羽毛が徐々に裾に落ちていくことが予想されます。これを防ぐために、ステッチで部屋を仕切っています。従って、縦方向にステッチを入れるデザインは、羽毛が下に落ちてしまい、好ましくありません。
ダウンジャケットの構造は、図2のようにいくつかのタイプがあります。
表側と裏側からステッチが見える2層タイプ、表側からステッチが見えない3層タイプ、表裏側いずれからもステッチが見えない4層タイプなどがありますが、デザイン的な要素によってまず仕様が決定します。図2の2層+2層タイプは、最も保温性に優れていますが、極寒用であり使用は限定的です。一般的には、2層タイプが最も多く生産されています。3層や4層は、「ステッチを見せたくない」「特殊な表地や裏地を使用したい」時に採用されます。
図2.ダウンジャケットの構造1)
-
羽毛の種類と特性
次に、ダウンジャケットの詰め材である羽毛について説明します。
-
水鳥の種類について
水鳥には2種類あります。(図3.参照) ガチョウ(グース)は、体も大きいため、羽毛(ダウン)のサイズが大きく密度があり良質な羽毛が取れます。アヒル(家鴨)の「ダック」は体も小さいことから、羽毛(ダウン)も小さく密度に乏しいため一般的には「グース」よりも安価です。
表1.羽毛の種類と特性
水鳥の種類 | 産地など | 特性 |
グース | ヨーロッパ、中国、北米、カナダなどが主な産地。 東ヨーロッパ、とくにポーランド産などが高級といわれている。 | ダックより体形も大きく、ダウンボールも大きく、かさ高性に優れている。 |
ダック | ヨーロッパ、中国、東南アジアなどが主な産地。 羽毛品質はグースに比べて若干劣る。 | ダックより小型で、1頭当たり採取できる羽毛は少ない。安価である。 |
図3.ガチョウ(左)とアヒル(右)
-
ダウン(またはダウンボール)
図4.は、羽毛の構成物を示しています。主にダウン(またはダウンボール)、フェザー、ファイバーで構成されています。
ダウン(またはダウンボール)は、図6のように真ん中の核から手のひらのように羽枝がたくさん広がった構造をしています。羽枝を広げた羽毛同士が集まると多くの空気を保持(デッドエア)することができます。それが保温層となり保温力を保つことが可能となります。羽毛の羽枝は柔らかく復元性に優れ、空気を含むため、製品はかさ高性が大きく、圧縮すると小さくなるコンパクト性にも優れています。また、羽毛は天然のたんぱく質素材であるため、吸放湿性にも優れています。
-
フェザー(またはラージフェザー)
図4上段のフェザー(またはラージフェザー)は、約6.5cm以上の羽根のことです。硬くてかさ高性も小さく、ダウンジャケットには適しません。図4の写真中段は、スモールフェザーです。約6.5cm未満の羽根で、一般のダウンジャケットにも、ある程度含まれています。
-
ダウンファイバー
ダウン(ダウンボール)から一本単位でちぎれたのが、図5のダウンファイバーです。このダウンファイバーが表地から吹き出すことがあり、ダウンファイバーを多く含む羽毛は、結果的に吹き出しやすいことになります。
図4.フェザーとダウン
図5.ダウンファイバー
図6.ダウンと羽枝ファイバー
-
ダウンジャケットなど羽毛製品の特性
羽毛製品の性能は、詰め材の羽毛の性能が最も影響します。一般的に、ダウンジャケットとポリエステル中わたジャケットの性能の比較は、表2の通りです。コンパクト性とは、登山用途で、限られた容量のバックパッキングに色々な用具を詰めて携帯する際、このコンパクト性が重要となります。
表2.ダウンジャケットとポリエステル中わたジャケットの性能の比較
項目 | ダウン製品 | ポリエステル中わた製品 |
保温性 | ◎ | ○ |
軽量性 | ◎ | △ |
コンパクト性 | ◎ | △ |
耐水性 | △ | ◎ |
臭気 | △ | ◎ |
価格 | △ | ○ |
イージーケア | △ | ◎ |
◎優れている ○普通 △やや劣る
図7.コンパクトに収納されたダウンジャケット
≪羽毛製品の特性≫
羽毛製品には、次のような特性があります。
- 多くの空気を含み暖かい
- かさ高性があり軽量
- コンパクト性(収納性)に優れる
- 成分がたんぱく質で吸放湿性がある
-
ダウンジャケット用素材について
羽毛製品の特性を上記「道しるべ」に示しています。これらの特性を生かすために、できるだけ軽量で風合いの柔らかい側地素材が使用されます。また、同時に一定の通気度を維持しながら、生地目からダウンファイバーやスモールフェザーフェザーが飛び出さない性質(ダウンプルーフ性)が求められます。
≪ダウンプルーフ素材の要件≫
- ダウンプルーフとは、羽毛が吹き出さない性能のこと
- 細い糸を使用した高密度織物で、ダウンプルーフ加工が施されて、一定の通気性に管理されていること。
- 引き裂き強さが、品質基準内にあること
-
ダウンプルーフ性
ダウンプルーフ性は、羽毛が生地目から吹き出さない性質で、羽毛が抜け出さないように、特殊な目詰め加工が施されています。これをダウンプルーフ加工と呼びます。ダウンプルーフ加工は、織目をつぶすことにより、羽毛の吹き出しを防止する効果があります。また、最近の2層タイプのダウンジャケットの表地や裏地には、ポリエステルやナイロンの素材が多く使用されていますが、綿素材のダウンジャケットも一部生産販売されています。綿織物素材もダウンプルーフ加工は可能ということです。
ダウンプルーフ加工は、染色仕上げ後に、高温高圧カレンダー装置で、表面を目つぶしして通気性(cm³/cm²・sec)を抑えていますが、完全に通気性をゼロにすると、製品のコンパクト性が損なわれるため、通気性は一定の範囲内になるように管理されます。(合繊素材の通気性基準:1.0 cm³以下/cm²・secが目安)
また、ダウンプルーフ加工はペーパーライク化する傾向があり、生機によっては、著しく引き裂き強さが低下することもあり、ご注意ください。
-
羽毛の精製とかさ高性の評価
-
羽毛の精製
羽毛は、水鳥から採取される天然素材です。採取直後の原毛には色々な不純物や塵や泥など付着しているため、図8のような精製工程で処理されます。また、図9は一般的な羽毛の表示例ですが、ダウン混合率が高いほど、ダウンボールも多く、品質が優れているといえます。フェザーは形状が平面であり、かさ高や保温性にあまり寄与しません。なお、ダウンボールからちぎれたダウンファイバーはフェザーに含まれます。
原毛→乾燥・除塵→洗浄→脱水→攪拌→乾燥
→冷却・除塵→選別(注)→収納
(注) 選別では、風力を利用して、ダウンとフェザーなどの選別が実施されます。
図8.羽毛の精製工程
ダウン 70%
フェザー 30%
ダウン 60%
フェザー 40%
図9.羽毛の家庭用品品質表示法による表示例
-
かさ高性の評価
羽毛製品には、かさ高性が重要です。このかさ高性はどのような羽毛でも絶対実現できるものではなく、良質でダウン(ダウンボール)の大きいものを使用し、かつダウン(ダウンボール)の混合率を高くすることで実現できます。もちろん、良質の羽毛はコストも高く、材料原価や上代にも影響するでしょう。その部分は、マーチャンダイザーの腕の見せ所と思います。このことから、羽毛選定の過程では、羽毛のかさ高性の評価は大切であり、JISなどで試験方法が定められています。基本的には、一定重量当たりの体積を算出しています。試験法には、次の2つがあります。
-
ダウンパワー
日本産業規格JIS L 1903-2011に基づいた試験がベースです。かさ高性はcm³/gで計算され、日本羽毛製品協同組合(日羽協)では、これをダウンパワーと呼び、ゴールドラベル認証を実施しています。
-
フィルパワー
欧米で主に活用され、羽毛1オンス(28.4g)の体積を立法インチ(inch³)で計算されます。我が国でも、アウトドアのダウンジャケットには、「フィルパワー600」や「フィルパワー800」などの表示が多くされており、登山者は、これらの数値を目安に購買されています。なお、1インチは2.54cmです。
図10.フィルパワー1000の商品例
-
ダウンジャケットのメンテナンス
ダウンジャケットは、一般に洗濯頻度は高くないでしょう。シーズン終了後に、クリーニング店に出される方が多いようです。ダウンジャケットに表示される取扱い表示例を図11に示しました。ただし、この表示例は、家庭洗濯とドライクリーニングの双方ができることを前提にしています。
図11.ダウンジャケットの取り扱い表示の一例
ダウンジャケットは比較的長期で着用されるため、羽毛にも汗汚れなどが付着します。このことから、水性の汗成分を除去するためにも、水洗いができることが望ましいと考えます。3層や4層の商品で、ウール素材など水洗いができない材料が使用されている場合はこの限りではありません。ダウンジャケットをご家庭で洗えるかと問われれば、「可能ですが、手間と時間はかかります」と言わざるをえません。洗濯機でガラガラ回すのではなく、基本は手洗い(押し洗い)です。以下に、筆者がこれまで自宅などで実施していた処理方法を参考例として紹介します。
- キッチンのシンクなど大きな容器に、中性洗剤を入れた水を用意する。押し洗いをしっかりする
- 側地はダウンプルーフ加工のため、水の出入りがしにくい。シンクの角に押し付けるように、しっかり押し洗いで洗浄・脱液を繰り返す
- すすぎは、同様に水だけで数回押し洗いを繰り返して、洗剤成分を除去する
- 家庭用自動洗濯機で、脱水を十分行う。この時、羽毛は水を吸って、ちょうどティシュを濡らして絞った状態になり、商品は「ペちゃんこ」になっている
- ジャケットがほぼ半乾きになるまで日陰で風乾する。乾燥するに伴い、徐々にかさ高が復元し始める。天候によっては、半乾きまで2~3日かかることもある
- 半乾きになると、タンブル乾燥する。時々乾燥機を止めて、かさ高の様子や羽毛の偏りを修正する
- 洗濯・乾燥処理が終了する
図12.家庭でのダウンジャケット手洗い方法の一例
以上のように、ダウンジャケットの家庭洗濯は、設備も手間もかかることはほぼ間違いありません。このため、シーズン終了後、クリーニング店に依頼されるケースも多いと思います。クリーニング店は、ドライクリーニング表示、ウェットクリーニング表示、組成表示を参考にしながら、それまでの経験に基づいた適切な洗濯処理をされるものと考えます。
-
羽毛製品の羽毛吹き出し事故と対策
羽毛製品の事故については、第7回アパレル散歩道の事例2「ダウンジャケットの羽毛吹き出し」でも述べていますので、改めて参考にしてください。羽毛の吹き出し現象は、①生地目から吹き出す、②縫い目から吹き出す、以上2つの現象があります。
-
生地目からの吹き出し
生地のダウンプルーフ性は、JISの通気性試験で管理されます。合成繊維100%の生地の基準は、通気性が1.0 cm³/cm²・sec 以下が一般的です。また、密度の粗い生地をカレンダー加工で無理に目潰しして通気性を抑えている素材では、洗濯や着用で通気性が徐々に大きくなり、吹き出し事故につながるケースがあり、洗濯後の通気性も、ぜひ5洗後程度の通気性を評価するとよいでしょう。
-
縫い目からの吹き出し
羽毛製品の製造は、通常、表裏ともにダウンプルーフ性のある生地で座布団状の各パーツを作り、これを縫製で合体する方式です。縫い目からの吹き出しも、厳密には2種類があります。
-
仕切り用のステッチの針穴から吹き出す
羽毛の偏りを防ぐ仕切りのステッチ縫製は、細番手の縫い針やスパン縫い糸などを検討し、針穴からのファイバーの吹き出しを低減させること。
-
パーツとパーツの接合部の縫い目から吹き出す
座布団状のパーツ端は、本縫いだけでなく、かがり縫い(オーバーロック)を施し、可能な限り縫い目からの吹き出しを事前に防ぐこと。
いずれにしても、先発製品(特に2層ダウンジャケット)では、羽毛吹き出し試験を実施しておくことが羽毛吹き出し事故のリスク低減になります。3層や4層品では、商品の吹き出しが顕在化しにくいことが予想されます。
≪羽毛の吹き出し対策の考え方≫
- 羽毛の吹き出しは、天然羽毛を使用する限り、基本ゼロにはできない。
- しかし、可能な限り、吹き出しの低減に向けて、側地、原毛、縫製仕様で検討すること。
- 消費者には、積極的に羽毛製品の長所と弱点を情報発信すること。
-
ダウンジャケットの新しい展開
-
ダウンジャケットの新しい着こなし
80年代のダウンブームから、ダウンジャケットといえば、非常に軽量で暖かいけれど、着ぶくれ状態になり、動きにくいという課題がありました。このため、最近では、ダウンベスト、インナーダウン、ミドルダウン、アウターダウンなど、多彩な着こなしが可能なダウンジャケットが登場し、現在では、登山専用ダウンジャケットから、カジュアルダウンベストまで、幅広い着こなしができる状況となっています。
-
羽毛製品とエシカル消費
エシカルとは、「倫理的」「道徳的」という意味です。羽毛は、もともと食肉の生産時に生じる副産物として得られる材料です。アパレルメーカーは、動物保護に基づき倫理的・道徳的に飼育や採取された原毛であることなどが求められます。このため、これらを継続的にこれを保証するためのサステナビリティが必要になるでしょう。
-
羽毛製品とリサイクル
世界的な地球温暖化で、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の設定が、各業界で求められています。繊維・アパレル産業でも同様です。この中で、開発目標12番の「作る責任・使う責任」で、メーカーと消費者の生産と消費に対する取り組みが大きく問われています。羽毛製品では、羽毛布団分野で羽毛のリサイクルが進行しています。古くなった羽毛布団を回収し、中の羽毛を取り出して再洗濯と再選別を行い、新たに新商品に活用する流れになっています。ダウンジャケットも今後より一層リサイクル化が進むものと思われます。ポイントは、持続可能な商品回収のシステムをどのように構築するかです。
図13.SDGs(持続可能な開発目標)
-
無縫製ダウンジャケット
これまでのダウンジャケットは、図14(左)のように、羽毛を仕切るステッチが一定間隔で入っているため、「雨や雪には弱い」「縫い目から熱が逃げる」などの弱点がありました。そこで、最近では、図14(右)のような無縫製で接着仕様のダウンジャケットが開発され商品化されています。接着テープを使用した無縫製仕様で針穴がないため、防水性が向上しています。
図14.従来品(左)(上)と接着縫製品(右)(下) (いずれも3層タイプ)
図15.ステッチのない接着仕様ダウンジャケットの一例
(参考資料)
1)(株)デサント:レポート「デサントダウン」P.5より抜粋
(補足説明のご連絡)
11月15日公開の
「アパレル散歩道30」の3.7クーリング性、②接触冷感の説明で、Qmaxの一般的な基準を0.2W/cm²と記載しましたが、厳密には下表となります。
改めてご確認ください。よろしくお願いします。
試験時の温度差の設定 | 一般的な基準 |
①JIS規格通りの10℃差の場合 | 0.1W/cm² |
②温度差を20℃差とした場合 | 0.2W/cm² |
(次回のアパレル散歩道)
次回は、アパレル生産におけるSDGsの具体的な対策を考えていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
コラム : アパレル散歩道33
~魅力ある商品を開発するために~
テーマ : アパレル製品の機能性 「環境にやさしいものつくり」
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長