おさえておきたい基礎知識

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《化学物質のいろは》第28弾 いま押さえておきたい難燃剤の基礎知識と世界の規制動向

2026/02/26

 2月末、少しずつ春の気配を感じる一方で、冬から蓄積した乾燥に加えて「春一番」などの強い風が吹きやすく、一年の中でも特に火災が発生しやすい時期です。こうした季節特有の火災リスクから、私たちの暮らしを守る「難燃性能」は、まさに安全を静かに支える重要な機能といえます。

 難燃性能を支える“難燃剤”の規制は、いま世界的に強まっています。第18弾でご紹介した中鎖塩素化パラフィンは、POPs条約で廃絶が決定し、国内でも製造や輸入の禁止に向けたカウントダウンが始まりました。これを受け、難燃効果の高いハロゲン系難燃剤から環境負荷が少ないとされてきたノンハロゲン系へのシフトが進んできましたが、難燃助剤の主役である三酸化アンチモンやホウ酸亜鉛についても、環境や人体への影響が改めて問われ、規制強化の動きが加速しています。

 今回の「化学物質のいろは」では、2026年以降を見据えた難燃剤の基礎知識から世界の規制動向まで、わかりやすくお伝えします。

難燃剤とは?その特性と繊維製品での用途

 難燃剤とはプラスチックや繊維などの燃えやすい素材に添加し、火災の発生を遅らせたり、燃え広がりを抑えたりする物質です。塩素系、臭素系、リン系、無機系などに分類され、素材や用途に応じて使い分けられます。

・塩素系:短鎖塩素化パラフィン(SCCP)、中鎖塩素化パラフィン(MCCP)など。炭素数や塩素化率によって分類されるハロゲン系有機難燃剤。デクロランプラス(DE, Dechlorane Plus, Cas No.13560-89-9)も代表的な塩素系難燃剤の一つ。

・臭素系:ポリブロモビフェニル(PBB)、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)など。燃焼時のラジカル反応を抑制することで高い難燃効果を示すハロゲン系有機難燃剤。

・リン系:トリフェニルホスフェート(TPP, Triphenyl Phosphate, Cas No. 115-86-6)やトリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート(TCPP, Tris(1-chloro-2-propyl) phosphate, Cas No. 13674-84-5)など。燃焼時に炭化層を形成して炎の広がりを抑える特性があり、繊維や樹脂など幅広い用途で利用される。

・無機系:三酸化アンチモン(Sb2O3,Cas No. 1309-64-4)はハロゲン系難燃剤の相乗剤として、ホウ酸亜鉛(ZB, 2ZnO・3B2O3・3.5H2O,Cas No. 1332-07-6 等)は高価な酸化アンチモンの代替として他難燃剤と併用としても単独としても利用される。

 繊維製品では、カーテン、カーペット、作業服、寝具、航空機や鉄道の内装材など火災リスクの高い場面で用いられ、火災による人的・物的な損害を抑えるうえで欠かせない役割を果たしています。
 

表 1 代表的な難燃剤の構造式

どうしてここまで注目されている?難燃剤の有害性と繰り返される歴史

 難燃剤が注目されている背景には、その有害性をめぐる問題が歴史的に繰り返されてきたことがあります。かつて広く使用された塩素系・臭素系難燃剤は高い難燃効果を持つ一方で、環境中で分解されにくく、生体内に蓄積しやすい性質が指摘されました。例えばSCCPの代替品となったMCCPは、残留性や生物蓄積性が懸念され、欧州を中心に規制が進められています。また、ノンハロゲン系難燃剤の代表的な助剤である三酸化アンチモンは、国際がん研究機関(IARC)により発がん性区分2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類され、ホウ酸亜鉛は動物実験で胎児への影響や生殖能力への懸念が報告されるなど、より慎重な取り扱いが求められています。このように「有害性が判明 → 規制 → 代替品導入 → 代替品の問題が発覚」というサイクルの繰り返しにより、難燃剤全体への注目が高まっているのです。

世界の規制動向

 こうした背景から、難燃剤を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。特に欧州を中心に、難燃剤を特定物質単位ではなく、似た性質や構造をもつものを包括的に規制する動きが加速しています。

 現在、注目すべきはトリス(2-クロロエチル)ホスフェート(TCEP, Tris(2-chloroethyl) Phosphate, Cas No. 115-96-8)、TCPP、トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)ホスフェート(TDCPP, Tris(1,3-dichloro-2-propyl) Phosphate, Cas No. 13674-87-8)といった有機リン系難燃剤の扱いです。これらは国際的に規制強化の議論が続く物質群であり、TCEPについては米国環境保護庁(EPA)が2024年9月に最終リスク評価を公表し、人の健康及び環境に不当なリスクをもたらすと判断し、有害物質規制法(TSCA)に基づくリスク管理へ進む予定です。TCPPやTDCPPについても、米国において評価対象物質として研究・データ収集が進んでおり、今後のリスク評価の候補に位置づけられています。

  また、TSCAは、2021年1月に難燃剤として広く使用されてきたデカブロモジフェニルエーテル(DecaBDE, Decabromodiphenyl ether, Cas No. 1163-19-5)をPBT(難分解性・高蓄積性・毒性)物質として指定し、米国では段階的な使用制限が進められています。DecaBDEは臭素系難燃剤ですが、このように種類を問わず、難燃剤全体に対する国際的な規制強化の動きが広がっており、企業としても最新動向を踏まえた対応が求められています。

表 2 おもな難燃剤の規制動向

おもな難燃剤難燃剤
カテゴリー
POPs条約日本
化審法
欧州
REACH規則
MCCP
中鎖塩素化パラフィン
塩素系規制済
(附属書A)
2026年以降
規制開始予定
(第一種特定化学物質)
REACH
SVHC (高懸念物質)
DP
デクロランプラス
塩素系規制済
(附属書A)
規制済
(第一種特定化学物質)
REACH
SVHC (高懸念物質)
DecaBDE
デカブロモジフェニルエーテル
臭素系規制済
(附属書A)
規制済
(第一種特定化学物質)
REACH 規制済
付属書XVII (制限物質)
TCEP
トリス(2-クロロエチル)ホスフェート
リン系REACH 規制済
付属書XIV (認可対象物質)
TCPP
トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート
リン系
TDCPP
トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)ホスフェート
リン系
TPP
トリフェニルホスフェート
リン系REACH
SVHC (高懸念物質)
Sb2O3
三酸化アンチモン
無機系
2ZnO・3B2O3・3.5H2O 等
ホウ酸亜鉛
無機系

残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)

MCCPは2025年の第12回締約国会議(COP12)、DPは2024年のCOP11、DecaBDEは2017年のCOP8で、附属書A(廃絶)に追加されることが決定しています。

日本(化審法)

MCCPは2025年6月の審議会で「第一種特定化学物質」に指定することとし、今後、製造・使用等の廃絶に向けた取組が行われる予定とされています。また、DPは2025年2月より「第一種特定化学物質」として施行が開始されました。

DecaBDEは「第一種特定化学物質」に指定され、製造・輸入・使用が原則禁止されています。

リン系及び無機系難燃剤に関しては現時点で使用の禁止や制限などの規制は設けられていませんが、

世界の規制動向に合わせて、今後規制が強化される可能性があります。

欧州 

2017年2月にREACH規制の制限物質対象リスト(付属書XVII)が修正され、DecaBDEの使用制限が追加されました。DecaBDEの代替品として広く使用されてきたデカブロモジフェニルエタン(DBDPE, Decabromodiphenyl Ethane, Cas No. 84852-53-9)についても、2025年11月に欧州化学品庁(ECHA)は、「極めて難分解性で、極めて蓄積性が高い(vPvB)」の基準を満たすとして、新たにSVHC(高懸念物質)リストに収載することを公表しました。

また、TCEPはREACH規則の付属書XIVに収載されており、認可が必要な物質として管理されています。さらに、TPPは2024年11月にSVHC(高懸念物質)に追加され、規制が強化されています。

▶米国

カリフォルニア州のProposition 65(プロポジション65)において、三酸化アンチモンは発がん性物質としてリストに収載されています。この法令により、三酸化アンチモンによる“有意な暴露”が生じる可能性がある製品について、企業は事前に警告することを義務付けられています。

エコテックス®の最新動向

 エコテックス®では、世界の規制動向をいち早く反映し、様々な難燃剤を規制しています。エコテックス®認証において、難燃剤は原則使用禁止ですが、認可剤として使用可能な場合もあります(ACP)。詳細に関してはご連絡ください。

 2025年4月1日からはTPPやTCPPなどの難燃剤が新たに規制対象として追加され、より幅広い国際基準や法律に対応できるようになりました。さらに、ノンハロゲン系難燃剤についても分析が可能で、最新の規制動向に合わせた安全管理を行うことができます。規制内容については、最新のRSL(規制物質リスト)をご確認ください。

 また、ニッセンケンでは、これらの難燃剤について個別の定量分析に対応しており、製品中の含有量を事前に把握することが可能です。

化学試験事業部からの耳より情報!

 難燃剤は私たちの暮らしを火災から守る重要な役割を担う一方で、その安全性や環境への影響については、いま世界的に厳しい目が向けられています。SCCPやPBDEに代表される残留性の高い物質に加え、代替品となったMCCPや、ノンハロゲン系の三酸化アンチモン・ホウ酸亜鉛などにも新たな懸念が指摘され、規制の動きが加速しています。昨今の規制動向を受け、DPについてもエコテックス®において規制の方向で検討が進められています。

 2025年9月にスタートした公式インスタグラムでは、化学試験の裏側や日々の業務に加え、化学物質に関する豆知識や最新トピックスも発信しています。ぜひこちらもチェックしてみてくださいね。

 

【有害化学物質に関するお問い合わせ先】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
ライフ アンド ヘルス事業本部 化学試験事業部
E-mail : oeko-tex@nissenken.or.jp

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