アパレル散歩道

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第52回 : ケーススタディ⑧色の変化~変退色その2~

2023/05/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.5.1

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 今回のアパレル散歩道は、繊維製品の色の変化に関する事故のうち、引き続き「変退色」を取り上げます。今回は、表1の4~7の原因について説明します。



表1 変退色の原因
変退色の原因散歩道
1日光による変退色第51回
2汗と日光の複合作用による変退色
3塩素処理水による変退色
4燃焼ガスによる変退色第52回
5金属作用による変退色
6漂白剤による変退色
7蛍光増白剤による変色


  1. 色の変化に関する品質事故「変退色」
     前回は日光による変退色、汗と日光の複合作用による変退色、塩素処理水による変退色を取り上げました。改めて、変退色の原因となる要素と品質管理項目を表2に示します。

    表2 変退色の原因となる要素
    変退色の原因原因となる主要素品質管理項目
    1日光による変退色日光や蛍光灯の紫外線耐光堅ろう度
    2汗と日光の複合作用による変退色汗と日光(紫外線)の複合汗日光堅ろう度
    3塩素処理水による変退色水道水やプール水中の塩素塩素処理水堅ろう度


    では、ここから後半の「変退色」4~7の事例の話を進めます。


  2. 燃焼ガスによる変退色
    (1)燃焼ガスとは
     私たちの身近にある灯油やガソリンなどの組成は炭化水素(Hydro Carbon)で、主に炭素(C)や水素(H)で構成されています。また、一部不純物として窒素(N)や硫黄(S)成分も含まれています。このため、これらの燃料が燃焼すると、水蒸気、二酸化炭素だけでなく、窒素酸化物、硫黄酸化物なども発生することになります。
    ~燃焼とは?~
    物質が酸素と反応して光と熱を発する現象を言います。
    水素(H2)+酸素(O2)⇒水(H2O)
    炭素(C)+酸素(O2)⇒一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)


    (2)燃焼ガスによる変退色の事故事例
     燃焼ガスによる変退色は、(1)で紹介した燃焼ガスによって生じる現象です。水素や炭素が燃焼して生成する水(H2O)や二酸化炭素(CO2)では衣料品に変退色は生じませんが、灯油やガソリンに微量に含まれる窒素(N)や硫黄(S)成分が燃焼して酸化窒素ガスや酸化硫黄ガスが発生すると、そのガスの酸化作用によって生地を染めている染料を破壊し変退色させることがあります。衣料品のガス退色事故の特徴や傾向をまとめると、次のようになります。

    • 燃焼ガスによる変退色は、石油ファンヒーターなどが使用される場所や、交通量の多い環境での保管や乾燥などで発生することが多い。
    • 石油ファンヒーターは燃焼効率が大きく、旧式のストーブより酸化窒素ガスなどが多く発生する傾向がある。
    • 燃焼ガスは水溶性で水に溶けやすく、衣料品が濡れていると濡れた部分にガスがより吸着され、変退色がむら状に発生しやすい。
    • セルロース系繊維、アセテート、トリアセテート、ナイロンなどのブルー系の素材で発生しやすい
      (図1参照)。
    • 変退色は大気中のガスと接触しやすい表側にむら状に発生することが多いが、時として裏面にガスが入り込み、裏側にも変色が生じることがある。
    • 酸化硫黄ガスは大気中に放出されると雨に溶け込み、酸性雨の原因になるとも言われている。


    図1 燃料ガスによる退色の例
    図1 燃料ガスによる退色の例
    (綿/ポリエステル ブルーの防寒ジャケット)


    石油ファンヒーターの特徴~
     旧式の石油ストーブは独特の燃焼臭があるのに対して、最近の石油ファンヒーターはあまり臭気がしません。これは、石油ファンヒーターの燃焼効率がより高いため臭気が少ないのですが、反面、酸化窒素ガスなどの発生は増加する傾向にあります。
    ~NOX(ノックス)とSOX(ソックス)~
     窒素の元素記号はNです。窒素は酸素との燃焼反応により、一酸化窒素や二酸化窒素が発生します。これらの発生したガスを酸化窒素ガス(NOX)と総称しています。同様に、硫黄の元素記号はSで、硫黄が燃焼して発生するガスはSOXと総称されています。ちなみに、亜硫酸ガス(SO2)などもこれに含まれます。
    次に、表3に燃焼ガスによる事故事例を紹介します。

    表3 燃焼ガスによる変退色の事故事例
    発生の事例原因となる因子
    1
    • 綿100% 青色ニットシャツ
      交通量の多い道路付近のベランダで干していたら、むら状に色あせした
    酸化窒素ガス(NOX)や
    酸化硫黄ガス(SOX)
    など
    2
    • ナイロン100%黒色ジャケット
      雨に濡れたので、石油ファンヒーターの真近で乾かしていたら、むら状に色あせした
    3
    • アセテート100% うぐいす色ブラウス
      保管中にむら状に色あせした


    (3)試験方法
     酸化窒素ガスによる変退色の評価方法には、窒素酸化物堅ろう度試験(JIS L 0855)があります。この試験方法は、試料の生地が酸化窒素ガス(NOX)によってどの程度退色しやすいかを評価するものです。
     酸化窒素ガスを封入した専用容器(図2参照)で、試料と標準染色布をガスに暴露させ、標準染色布が3-4級まで変退色したときの試料の変退色の程度を「級数」で評価しています。試験には、弱試験(1サイクル試験)と強試験(3サイクル試験)があり、強試験は弱試験を3回繰り返す厳しい試験法です。
     一般衣料ではおおむね弱試験が採用され、特殊作業衣などガス退色のリスクの高い衣料では強試験などが採用されているようです(表4参照)。したがって、品質管理で弱試験か強試験のどちらを選択するかは、その商品の用途を考慮して商品企画を担当するアパレルメーカーが決定すべき事項となります。

    表4 窒素酸化物堅ろう度試験の種類
    試験法用途
    弱試験(1サイクル試験)一般衣料品
    強試験(3サイクル試験)特殊作業衣など

    図2 窒素酸化物堅ろう度試験装置
    図2 窒素酸化物堅ろう度試験装置



    (4)燃焼ガスによる変退色の対策
     燃焼ガスによる変退色は、①ガス退色しやすい素材や色、②商品保管や洗濯乾燥した環境(ガス濃度など)の複合要因の可能性が高いことから、商品企画時の材料事前評価消費者への情報発信が大切になります。

    表5 燃焼ガスによる変退色の対策
    段階対策
    材料の事前評価
    • 用途により、品質管理項目に「ガス退色」を適時設定する
    • 事前に、ガス退色のリスクが高い素材や色は、酸化窒素ガス試験などを事前に実施し、適時レサイプ変更により退色性を向上させる
    • 染色加工段階で、ガス退色防止剤を併用する
      消費者への情報発信
      • 保管は湿気を避け、換気を十分に行っていただく
      • 暖房機、特に石油ファンヒーターなどの真近での乾燥などは避けていただく
      • 特に交通量の多い道路環境の付近での吊り干しや保管は変退色のリスクが高いことを理解していただく


      • 金属作用による変退色
         金属ファスナー・金属ボタンなど金属製付属品が、汗や漂白剤などの洗濯助剤などの影響でイオン化し、付近の染料と反応して変退色することがあります。また、綿などを染める染料の中には含金属タイプの染料もあり、この金属成分と汗などが反応して変退色することがあります。

        (1)金属作用による変退色の事故事例
         金属作用による変退色の事故事例を表6に示します。

        表6 金属作用による変退色の事故事例
        発生の事例原因となる因子
        1
        • 綿100% グリーン色ジャケット
          洗濯後、前立ての真鍮製ボタン周りが黄色っぽく変退色した
        • 金属付属品
          (特に銅成分を含むもの)
        • 含金属染料使用
        2
        • 綿100% ブルー色シャツ (含金属染料使用)
          汗をかいて放置していたら襟が変退色していた


        ~含金属染料って?~
         染料分子と銅、ニッケル、クロムなどの金属原子が結合した染料のこと。含金染料、金属錯塩染料とも呼ばれています。アゾ染料の多くがこれに含まれ、染色性、耐光性、耐洗濯性に優れている染料です。ただし、同染料の中には、有害性の指摘される特定芳香族アゾ染料もあるので注意すること。“有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(平成28年)”を参照のこと。
        ~金属の真鍮しんちゅうの成分は?~
         真鍮とは、銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金のこと。黄銅とも言います。ファスナーの務歯やボタンやインテリア品などに使用されます。
        五円玉も真鍮でできています。
        五円玉


        (2)金属作用による変退色の対策
         この作用による変退色の対策は、表7の通りです。

        表7 金属作用による変退色の対策
        原因対策
        金属付属品からの金属イオンによる影響
        • ファスナーやボタンは樹脂製への変更を検討する
        • 金属部分に樹脂コーティング加工を施す
        • 「汗などをかいたまま放置しない」などの取り扱いを消費者にお願いする
          含金属染料使用による影響
          • 可能ならば、事前に染料タイプを把握する。場合により染料レサイプを変更する
          • 「汗などをかいたまま放置しない」などの取り扱いを消費者にお願いする


          • 漂白剤による変退色
             漂白剤には、その酸化作用によって製品に付着した汚れの色素を分解し白くする効果があります。漂白剤は表8のように、白物に使用する塩素系漂白剤と色物や柄物に使用できる酸素系漂白剤があります。また、販売量は少ないですが、赤土汚れなどを落とす還元漂白剤も一部で販売されています。赤土には酸化鉄が含まれており、この酸化鉄の色素を除去するには、水素と反応させる必要があるからです。漂白作用の違いについては、酸素系より塩素系の方が酸化作用が強く、JIS規格の取扱い表示でも表8、表9のように区別されています。

            還元とは水素と結合することで、酸化は酸素と結合すること。
            塩素系漂白剤も強い酸化力で色素を分解します。



            表8 漂白剤の種類
            種類用途
            塩素系
            漂白剤
            シーツや下着など白物が中心
            酸素系
            漂白剤
            色物、柄物が中心
            還元系
            漂白剤
            赤土汚れなど


            表9 JIS規格の取扱い表示 (漂白剤)
            マークの種類意味
            漂白処理はできない
            塩素系漂白剤、酸素系漂白剤による漂白処理ができる
            酸素系漂白剤による漂白処理はできるが、塩素系はできない


            (1)漂白剤による変退色の事故事例
             漂白剤による変退色の事故事例は表10の通りです。

            表10 漂白剤による変退色の事故事例
            発生の事例原因となる因子
            1
            • 綿100% 黒色のTシャツ
              洗濯後、全体に色あせが進行した。塩素系漂白剤を誤って併用した
            • 取り扱い表示(酸素系・塩素系漂白剤ともに可)
            • 塩素系漂白剤~成分は次亜塩素酸ナトリウムである
            2
            • 綿100% 紺色スウェットパンツ
              風呂場でカビ取り剤を使用していたら、パンツに斑点状の脱色が発生した。カビ取り剤が付着した
            • カビ取り剤~カビ取り剤の成分は通常、塩素系漂白剤と同じ次亜塩素酸ナトリウムである
            3
            • レーヨン100% プリントブラウス
              ブラウスを酸素系漂白剤に長時間漬けこんでいたら、ブルー系の部分が色あせした
            • 取り扱い表示(漂白剤ともに可)
            • 酸素系漂白剤~成分は過酸化水素である
            • 漂白剤濃度 漬け置き時間、水温など


            (2)漂白剤による変退色の対策
             漂白剤による変退色の対策は、基本は適正な取扱いに尽きると思います。

            表11 漂白剤による変退色の対策
            分類対策
            漂白剤に関する取扱い表示酸素系漂白剤の表示を検討する場合は、事前にJIS L 0889「酸素系漂白剤を用いる洗濯に対する染色堅ろう度試験」を実施し、生地の実力を確認する
            消費者への情報提供消費者が適正な取扱いをできるように、適時漂白剤に関する任意表示を行う




          • 蛍光増白剤による変色
             これまでの変退色事故が外的要因で染料が破壊されるのに対して、この蛍光増白剤による変色は、洗剤中に含まれる蛍光増白剤が淡色製品に付着することによって、より白っぽく見える事例です。消費者にとって白物衣料を洗濯することで白度が向上することは好ましいことですが、特に、淡色の綿、麻、レーヨン製品などがこれにより色あせすることは、理解しにくい現象かもしれません。

            (1)蛍光増白剤の仕組み
             蛍光増白剤は目に見えない紫外線を吸収し、青白い蛍光を発して白物衣料品の白度を上げる効果があります(図3参照)。もともと市販の白物衣料は、生地染色段階で蛍光剤が併用されています。しかし、綿や麻やレーヨンなどの白物衣料に使われている蛍光剤は繰り返し洗濯などで脱落し、白度が低下して繊維本来の色に戻るため、洗剤に蛍光剤を配合することで白度の低下を防ぎます。

            図3 蛍光増白剤のメカニズム
            図3 蛍光増白剤のメカニズム



            (2)洗剤と蛍光増白剤
             衣料用洗剤には石けんと合成洗剤がありますが、現在では石けんの使用比率は少なくなっています。それぞれの特徴、および蛍光増白剤の配合の有無などを表12に示しています。

            表12 洗剤の種類と蛍光増白剤
            分類特徴
            石けん(洗濯用)
            • 水中で弱アルカリ性になるため、毛製品や絹製品などの洗濯には適さない
            • 冷水に溶けにくい。また、水道中の金属成分と結合しやすい
            • 部分洗い用の洗濯石けんには、蛍光増白剤が含まれるものもある
            洗濯用
            合成洗剤
            洗濯用
            重質洗剤
            • 綿や麻などのセルロース系繊維製品、合成繊維製品などの普段の汚れものの洗濯に使用される
            • 粉末合成洗剤の液性は弱アルカリ性であり、酵素や蛍光増白剤を配合しているものが多い
            • 液体合成洗剤にも酵素が配合されている。その液性には弱アルカリ性や中性があるが、蛍光増白剤を配合しているものと配合していないものがある
            おしゃれ着用洗剤
            • 毛や絹の製品にも使えるように、液性は中性で酵素は無配合である。衣料の取扱い表示で「中性洗剤使用」の場合は、このおしゃれ着用洗剤を使うこと
            • 色合いを守るために蛍光増白剤が配合されていない
            • 洗濯機などの強い洗濯が好ましくない衣料の洗濯に使用される
              蛍光増白剤は、洗剤によって配合されているものと配合されていないものがあるため、消費者は購買にあたり、成分表示を確認し、目的にあった洗剤を選ぶことが大切です(図4、図5参照)。


            図4 蛍光増白剤を含む洗剤の表示例
            図4 蛍光増白剤を含む洗剤の表示例



            図5 蛍光増白剤を含まない洗剤の表示例
            図5 蛍光増白剤を含まない洗剤の表示例



            (3)蛍光増白剤による変色の事例
             蛍光増白剤による変色事故の事例を表13に紹介します。

            表13 蛍光増白剤による変色の事例
            発生の事例原因となる因子
            1
            • 綿100% ベージュ色パンツ
              家庭洗濯したら、表裏とも全体に薄くなった
            • 綿素材である
            • 洗剤中の蛍光増白剤
            2
            • 綿100% 薄いピンク色ブルゾン
              家庭洗濯したら、部分的に白っぽくなった
            • 綿素材である
            • 洗剤の洗濯機への投入方法


            (4)ブラックライトによる確認試験

            図6 ブラックライト試験の例
            図6 ブラックライト試験の例

             色あせの原因が、蛍光増白剤によるものかどうかを確認するための試験として、ブラックライト照射試験があります。ブラックライトとは、紫外線を発する光源を持つライトのことです。蛍光物質は図3のように、紫外線を吸収して青白い可視光(蛍光)を発する性質があり、ブラックライトで紫外線を照射すると、通常では目で確認できないものが明瞭に明るく見えるようになります。
             例えば、表13の例2のように薄いピンク色ブルゾンが部分的に色あせしたケースにおいて、一般的な原因には、①洗濯堅ろう度不良、②漂白剤の影響、そして③蛍光増白剤の影響などが考えられます。原因を絞り込むために、事故発生部分にブラックライトで紫外線を照射して、新品製品(または生地)と比べてより明るく明瞭な輝きが生じれば、原因は洗濯時に衣料品に直接蛍光増白剤を含む洗剤を振りかけたために、その部分だけが蛍光増白剤の作用でより白くなったと推定されます。

            (5)蛍光増白剤による変色の対策
             消費者にとって、淡色の綿製品が洗剤中の蛍光増白剤によって色あせする現象は理解しにくいことかもしれません。したがって、アパレルメーカーは、このようなリスクのある淡色の綿や麻衣料などには、「蛍光増白剤を含まない洗剤を使用のこと」などと表示して、事故を未然に防ぐことが大切になります。また、消費者には図4や図5のように、家庭用品品質表示法による洗剤成分表示に蛍光増白剤が明記されていることを理解していただくことがポイントになります。


          (次回のアパレル散歩道 / 6月1日発行)

          次回は、「ケーススタディ ⑨色の変化~汚染・色泣き (その1)~」を取り上げます。

          コラム : アパレル散歩道53
          ~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
          テーマ : ケーススタディ ⑨色の変化~汚染・色泣き (その1)~


          発行元:一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
          E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp     URL:https://nissenken.or.jp

          ※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

          Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

          清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

          43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



          社外経歴
          (一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
          (一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部幹事
          大学非常勤講師
          (一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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