アパレル散歩道

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第6回 : 品質事故例の紹介 ~企画・設計不良 その1~

2020/11/01

アパレル散歩道 繊維製品の品質事故はなぜなくならないのか

2020.11.1

 

 本コラムも6回目になりました。副題の「繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか」のテーマに対して、コラム1では、品質事故の原因には、①企画・設計不良、②生産のばらつき、③表示不適正、があると申し上げました。そして、コラム2の「アパレルメーカーでのものつくり」を経て、コラム3.4.5では、その品質事故の分類(どのような現象の事故があるのか)と、その要因(どのような要因があるのか)を説明しました。
 今回のコラムからは、具体的な例をあげて勉強しましょう。今回は「企画・設計不良」を取り挙げます。
 「企画・設計不良」が原因の品質事故の責任は、もちろんアパレルメーカーのMD部門にあります。
 メーカーの関係者は、この原因による事故低減に向けて、各種の自己研鑽が必要になります。

1.「企画・設計不良」の事例

1.1染色関連・・用途、デザインと染色性のミスマッチ

事例1. 綿商品(濃淡商品)の洗濯堅ろう度

(事故の概要)

綿100%のスカートを初めて洗濯したら、黒色部が白地に色なきした。漂白剤は使用していない。

            

                                 

スカート(綿100% 先染)の白場への色なき
図1スカート(綿100% 先染)の白場への色なき 

綿100%のシャツを初めて洗濯したら、白い袖がブルー色になった。漂白剤は使用していない。

                 

シャツ(綿100% 後染)の白場の再汚染
図2シャツ(綿100% 後染)の白場の再汚染

(取扱い表示) 

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(事故現象に関するコメント)

図1の先染め綿100%スカートは、白場部分がグレー色に汚染し、また図2のシャツでも、袖の白色部が薄くブルーに汚染していました。もちろん、消費者の洗濯取扱いで、高温洗濯や長時間浸漬などがあれば、同様の事故の生じる可能性がありますが、ここでは企画・設計の観点から話をすすめます。まず、濃淡商品を企画する時、MDは次のことを理解して企画しなければなりません。

・濃淡配色衣料は、無地商品に比べると、色なき・汚染のリスクは大きい。

洗濯堅ろう度、汗や水堅ろう度など湿潤堅ろう度がポイントになる。

・選択した生地が、濃淡商品の消費性能に合致しているか、また洗濯しても問題はないか。

 一般のアパレル製品では、洗濯、汗、水などの湿潤堅ろう度は、汚染3級程度で進められることが多いようですが、同じ生地を使って、無地商品と濃淡商品の企画があるならば、やはり濃淡製品でも耐えうる品質基準を設定しておくことが賢明と思います。場合により汚染3-4級以上で品質管理するなどの対応が求められます。

スポーツウェアでは、ユニフォームとして濃淡配色が多用され、チームでまとめ洗いや高温洗濯が予想されるため、多くのスポーツメーカーでは、湿潤堅牢度は汚染4級で管理されています。

(事故要因と対策)

・濃色生地の洗濯、水、汗、摩擦など、染色堅ろう度は問題ないか。まず見本反のデータを確認すること。

・取扱いマーク表示は適正か。 高温洗濯ほど、染料がにじみだすので、洗濯温度表示は30℃でもよい。できれば、実際に実用洗濯試験を実施して欲しい。

・取扱い上の「ご注意表示」は適正か。長時間漬け込み、漂白剤、高温洗濯などに関する表記をすること。

・濃淡配色品と無地製品で、品質基準値に差をつけているか。同じ生地で2水準の品質の生地を作るのも非現実的であり、濃淡配色もありうる前提で高めの基準を使用することが事故リスク低減にかなっている。

・可能な限り、製品で実用洗濯試験をおこない、問題の有無を確認して、企画以降をすすめること。

  1. 濃淡配色品は、洗濯による汚染・色なきのリスクは高い
  2. 実用洗濯試験で異常の有無を確認し、湿潤堅ろう度の品質を改善する
  3. 洗濯時の染料脱落の程度は、目付の大きい生地のほうが小さい生地よりも大きい。

                           

事例2.ポリエステル商品の昇華堅ろう度 

(事故の概要)

濃淡配色のポリエステルシャツを、店頭でポリ袋から出したら、濃色が淡色部に汚染をしていた。製品のたたみ段階では、薄紙(昇華防止紙)は使用されていなかった。

         

シャツ(ポリエステル100%) 移染
図3シャツ(ポリエステル100%) 移染

(取扱い表示)

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(事故現象に関するコメント)
 最近、店頭でこの汚染事故が増加しています。発生すると複数発生であるため、事態の収拾に多くのコストと時間を費やすことがあります。ポリエステル(レギュラー)は、分散染料で染色しますが、分散染料の特徴として昇華しやすいことが挙げられます。特に、長時間高温で保管されますと、濃色部から淡色部に分散染料が昇華し、汚染が発生します。最近のアパレル製品は中国やアセアン地区で縫製され、コンテナ船で日本に輸入されます。コンテナ内部は60℃以上にもなることが報告され、昇華堅ろう度が低いものはもちろん、基準に合格している 製品でも、色移りすることがあります。

(事故要因と対策)
・ポリエステルの濃淡配色品は、分散染料の昇華による汚染の懸念がある。
・海外生産によるコンテナ移送で、コンテナ内は60℃以上になることがある。特にアセアン地区から船で輸送 されるものは、赤道を通過することもあり、汚染のリスクが高くなる。
・適正な昇華堅ろう度の基準を設定し、少なくとも基準を下回るものは改善すること。昇華堅ろう度不良には、還元洗浄(RC)不足や濃度が濃すぎることが考えられる。
・試験方法はJIS L 0854の昇華堅ろう度試験がある。試験条件は120℃×80分であるが、企業によっては、70℃×48時間、130℃×90分などの条件も採用されている。場合により、淡色の共生地を添付布としてもよい。
・基準に合格した製品であっても、在庫条件や在庫期間によっては事故が発生する。薄紙(昇華防止紙)による対策が必須である。薄紙(昇華防止紙)の指示もれが考えられるため、縫製仕様書に記載すること。
合成皮革のポリウレタン樹脂は、分散染料との相性が良くさらに汚染リスクが高い。
吸汗速乾素材など機能加工を施している素材との接触も、分散染料と機能樹脂との相性により汚染が生じる リスクが高い。

  1. ポリエステル濃淡配色品は、分散染料の昇華汚染のリスクは高い
  2. 昇華堅ろう度を向上させつつ、薄紙を併用することは必須である。

                  

事例3.ゴルフ綿シャツの汗日光堅ろう度

洗濯後、紺色の綿ポロシャツの襟が部分的に赤変しているのに気がついた。真夏の炎天下、ゴルフで汗を大量にかいて着用していた。

(取扱い表示)

ポロゴルフシャツ(綿100%) 変退色
図4 ポロゴルフシャツ(綿100%) 変退色

(事故現象に関するコメント)
 この現象は、染色に反応性染料を使用する綿などのセルロース繊維だけに生じる問題です。汗による単独の変色、日光による単独の変色は、酸化作用による退色ですが、汗と日光の複合退色は還元作用による退色です。日光が絡んでいますので、ポロ襟の裏面は光が当たらないので変色しないのが特徴で、これが原因を絞り込むポイントにもなります。
(事故要因と対策)
・本現象は、綿やレーヨンなど反応性染料による染色品に発生する。汗と日光の複合的な化学作用で染料が 還元され変色したものである。
・この変色には個人差がある。これは汗の成分に差(飲み物や食事、薬、疲労成分など)があることに起因することが知られている。
・汗、日光の単独の染色堅ろう度が良くても、汗日光堅ろう度が悪いことがある。この性質は染料レサイプで決まるため、企画段階などで事前に試験をおこない、同堅ろう度が低ければ、染料レサイプ(配合)を変更するなどの対策が必要です。半級程度の改善であれば、紫外線吸収剤の使用も考えられます。
・試験は、JIS L 0888「光及び汗に対する染色堅ろう度試験法」(ATTS人工汗液法)を実施し、3級以上の生地を採用すること。人工汗液にはJIS汗液とATTS汗液があるが、ATTS汗液は変色に因果関係の高い乳酸を含むため実用性が高いといわれている。ATTS汗液法の一般的な合格基準は3級以上である。
・商品に付記表示で、「汗がついたら、すぐに洗濯すること」と書くこと。汗の付着残留はできるだけ避けたいですね。

汗日光堅ろう度と乳酸
スポーツドリンクの成分表示(乳酸成分が含まれている)
スポーツドリンクの成分表示(乳酸成分が含まれている)
  1. 汗日光堅ろう度は、ソーピングで向上しない。染料レサイプを見直すこと。2-3級を下回ると事故のリスクが増加する。
  2. ブラックやネイビ色は、赤変するケースが多い。これは配合している染料のうち、ブルー系の染料が先に変質し、相対的に赤色が目立つためです。ブルー系染料は、色々な要因で変退色しやすい染料と言えます。

                 

1.2物性関連・・用途やシルエットに対して素材物性のミスマッチ
事例1. 極細糸・高密度、コーティング加工布使い商品の引裂き強さ

運動中、ナイロン織物製ウインドブレーカーのポケットが、木の枝などに引っかかって、ポケットから簡単にさっと裂けた。

(取扱い表示)

carelabel

(事故現象に関するコメント)
合繊の織物は引張り強度が強いですが、引き裂き強さが驚くほど低いことがあります。古新聞をくくるポリテープなどは引張ってもなかなか切れませんが、たて方向に切れ目を入れると簡単に裂けますね。織物もそのようなイメージです。

極細ナイロン織物の一例
※(経緯ともに17dT/12f)
図6 極細ナイロン織物の一例
※(経緯ともに17dT/12f)

(事故要因と対策)

・織物の強さは、引張り強さや引裂き強さで評価される。
・合繊織物は経・緯方向ともに引張り強さに優れるが、極細糸使い、高密度、コーティング加工織物はややペーパーライクになるため、引き裂き強さは意外に低いことがある。一般的な引き裂き強さの基準は10 Nであるが、最近の軽量素材ではその基準を下回って5N前後になるケースもあるようである。
・商品設計時に引裂き強さを評価し、素材の改良や縫製仕様の検討を追加すること。引裂き強さの改善は、根本的に生地規格の変更につながるケースもあり、時間がかかることもあるので注意すること。
柔軟加工剤処理をすることによって、経糸緯糸の自由度が向上し、引き裂き強さはやや向上するが、大幅な改善は難しい。やはり糸使いを含めた生地設計からの改善が求められる。
パンツ仕様の有無、シルエットがタイトかルーズかもポイントになる。
・一枚使いでなく、裏地仕様にすると事故低減対策につながることがある。

織物の規格について
  1. 極細糸使い、高密度、樹脂加工、カレンダー加工、コーティングなどは、織物がペーパーライクになり引き裂けやすくなる
  2. 柔軟加工剤処理は、糸の自由度を上げ、引き裂き強さはやや向上する。

                      

事例2.婦人スーツの滑脱不良(スリップ)  

麻100%の婦人スーツで、着用を続けていたら、肩部など力のかかる縫い目がスリップ(滑脱)してきた。タイトなデザインであった。

(取扱い表示)

carelabel

(事故現象に関するコメント)
婦人服などでは、優雅な光沢や色合い、美しいドレープやシルエットが求められる。その結果、素材では、風合いがソフトでドレープ性があるが、織糸が滑りやすい、縫目に強い力がかかると織糸がスリップ(滑脱)して縫目が開くことがある。

(事故要因と対策)

・事前にJIS L 1096滑脱抵抗力試験縫い目強さ試験を実施し、基準に合格した素材を採用する。
・ブラウスなどでは、懸念部分は裏から接着芯地で補強する。
・タイトシルエットは、滑脱のリスクが高いと理解したうえで、余裕のあるパターンを検討する。

滑脱(スリップ)事故の一例
図7滑脱(スリップ)事故の一例
滑脱抵抗力試験のイメージ
図8滑脱抵抗力試験のイメージ

  

        

                   

<次回のコラムについて>

 次回コラムは、「企画・設計不良」に起因する縫製に関する事故事例を紹介します。

コラム : アパレル散歩道⑦
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 品質事故例の紹介 ~企画・設計不良 その2~

               

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                  

Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)  

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。

社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事

               

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