アパレル散歩道

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第2回 : アパレルメーカーのものつくり

2020/09/01

2020.9.1

 こんにちは。暑い日々が続きます。

 さて、前回のコラムでは、品質事故の原因には、①企画・設計不良、②生産のばらつき、③表示不適性の3つがあると申しあげました。これらをより分かりやすく理解していただくためには、「アパレルメーカーでは、どのようなものつくりがされているか?」を知ることが大切です。わが国の多くのアパレルメーカーは、主素材や副資材をそれぞれのメーカーから購買しています。また、縫製も自社工場だけでなく協力工場に依存している比率が高くなっています。このようなことを前提に、このコラムを読み進めてください。

1.アパレルメーカーの機能

 アパレル業界には、紳士服、婦人服、スポーツウェア、下着・インナー、子ども服、ユニフォーム、カジュアルウェア、ソックスなど色々な服種があり、それぞれの専業アパレルメーカーがあります。一般的な「アパレルメーカーの会社組織と製品の流れ」を一例として図1に紹介します。

図1 アパレルメーカーの組織と製品の流れ

 多くのアパレルメーカーは、複数のブランドを有し、ブランドごとにマーケティング部、営業部、業務部などがあります。自社工場や商社系協力工場(アパレル生産工場)で製造された商品は、アパレルメーカーが指定する外部倉庫に納品され、その後、代理店、専門店、百貨店、通販(ネット含む)などそれぞれの流通に出荷され、消費者の手にわたります。

 この図1を見ていただくと、なにか気づきませんか。そうです。縫製工場から出荷された製品は、何も指示しなければ外部倉庫に入り、配分後に出荷され、最終的に消費者に渡りますが、この間アパレルメーカーの社員が本番の完成品をしっかり見ていない状況が発生することがあります。

 アパレルメーカーとして、完成品が当初のサンプル品で了解した外観品位や風合い、仕様を満足しているか、商品をしっかり確認しておくことが、品質事故未然防止につながります。もちろん、縫製工場では全数検査や抜き取り検査を実施している前提ですが、それでも、配色ミス、表示取り付けミス、縫製仕様ミスなどが発生する可能性があり、先発品は少なくとも最小点数(品番、全色)は社内でチェックされることをお勧めします。

本生産品は、必ず社内で品位や仕様、表示を確認しよう。

                          

2.アパレルメーカーのものつくり

2.1 プロダクトアウトからマーケットインのものつくりへ

 私が入社した約40年前には、生産部門で生産数を決定する、いわゆる「プロダクトアウト」方式がまだ一部に残っていました。大量生産のコストメリットはあるものの、発注量と納期の精度が甘く、時として不良在庫が発生していました。しかし、最近のものつくりは、「不良在庫は悪」という考え方から発注精度を上げるため、モノつくりはマーケティング手法に基づく「マーケットイン」方式に代わっています。でも、現在でも市中の衣料品の在庫の山を見ますと、まだまだ改善の要ありと思わざるを得ません。

                        

               

2.2 アパレルメーカーのものつくりの流れ

 具体的にアパレルメーカーはどのようにモノつくりをしているでしょうか。2.1で示しましたように、モノつくりの基本はマーケットインであり、市場動向や消費者ニーズを把握することから出発します。図2は一般的なアパレルメーカーにおけるモノつくりの流れです。図の①から⑨へとものつくりが進行します。では、これから番号順にそれぞれの概要を説明しましょう。

図2 アパレルメーカーにおけるものつくりの流れ

①マーケティング戦略

市場調査に基づき、以下のことが検討されます。

 ・商品政策(どの消費者に、どのようなデザインや素材、外観、機能、品質(※)を有する商品を展開するのか)

 ・販売政策(どのような原価と上代で、どれくらいの量をいつ頃に展開するのか)

 ・流通政策(どの流通で展開するのか、直営店か、ネットか、専門店かなど)

 ・SP政策(どのようなセールスプロモーションを予定するのか)

用途や目的を定めて商品企画するのであるから、商品政策では、当該品の品質レベルは事前に決めておくこと。

②製品デザイン・機能開発

 ・製品開発には、「材料開発」と「製品開発」があります。

 ・「材料開発」は、新規性のある繊維素材や副資材、二次加工などがあります。

  (例:ドレープ性に優れた綿麻織物、消臭性に優れたウールニット、クーリング機能のある合繊など)

 ・「製品開発」は、パターンや縫製仕様を工夫して新規性のある商品を開発します。

   (例:動きやすい大胆なダーツ、運動機能性が向上する立体パターン、新規性のある無縫製仕様など)

③商品企画

 ・ブランドのシーズンラインナップの決定、カラーと配色、サイズ展開の決定、機能下げ札等の決定など。多くのアパレルメーカーでは、図3のように年2回(春夏と秋冬)の商品企画が実施されています。

図3 アパレルメーカーの年間企画スケジュール(例)

④プロトサンプル作成

 ・デザイナー作成のデザイン画にもとづき、試作見本製品を作成する。

⑤展示会サンプル作成

 ・元型をグレーディングして、パターンをサイズ展開する。

 ・本生産を前提にマーキングを実施し、要尺(一着あたりの生地単価)を確定する。

 ・展示会に向けて、予定品番の各色サンプルを作成する。最近は、環境負荷や経費低減の視点から、色数を絞った対応もみられる。

製品原価(直接) = 生地原価+副資材原価+縫製工賃

⑥展示会開催

 ・展示会にて、ディーラーに対して商品プレゼンをおこない、受注を得る。展示会開催もコロナ後は、大きく変化するでしょう。究極的にはデジタル展示会になるのでしょう。

⑦生産数決定

 ・各地の展示会受注数を集計し、生産予定数を決定する。

⑧本生産

 ・アパレルメーカーは、自社生産あるいは商社委託生産を考慮し、納期を定めて発注する。

⑨販売

 ・所定の流通(チャネル)に所定のスケジュールにしたがって納品をおこなう。

                       

3.アパレルのものつくりと品質(最後に)

3.1  企画・設計不良をいかに防ぐか

 これまでアパレルのものつくりの流れを勉強しましたが、ここで大切なことが判ってきました。

先に、品質事故原因分類に、「企画・設計不良」があると説明しました。例を挙げると、

 a.製品のソフト感を追求するあまりに、非常にスリップしやすい生地をパンツ用に企画した

 b.はっ水性のない生地をレインウエアに採用した

などのケースでは、単品事故に終わらず、事故と苦情が拡大し、最悪商品回収やリコールにもなりかねません。

このようなことのないように、我々は少なくとも展示会までに、不適切な品質企画案件を発見し、改善させたり、企画を中止させる判断と指示が必要になります。担当者の個人的な資質も大切ですが、それ以上に、会社として組織的な対策が求められると思います。

                 

3.2 商品政策と品質

 前出の図2で「 アパレルメーカーにおけるものつくりの流れ」を示しました。

③の商品企画では、材料を選択する役割と権限はマーチャンダイザー(MD)が有しています。したがって、MDが最初に「箸にも棒にも掛からない生地」を選択すると、そののちのいろいろなトラブルは予想されますね。

①のマーケティング戦略の「商品政策」は、見た目の製品の企画だけでなく「品質」を意識した材料開発や材料選択が必須であり、これを実現するため、マーケティング部門、品質管理部門、調達部門が大いに連携することが大切と考えています。

                              

4.次回コラムのご案内

次回からは、品質事故の代表的な要因を勉強しましょう。次回は「繊維」と「糸」を取り挙げます。

コラム : アパレル散歩道③
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 品質事故の分類と要因 その1~「繊維」・「糸」

               

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                 

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