思いつきラボ

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No. 82 「ベルベットと別珍(べっちん)とは違うもの…」

2017/02/15

繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。

※2017年2月15日時点の内容です。

年が明けたと思っていたら“あっ”という間に立春も過ぎてしまいました。暦の上では春を迎えましたが、数日前にはまた各地で記録的な積雪があったところで、寒さの本番はもうしばらくつづきます。
繊維にも冬向きの糸や生地があります。この時期はやはり防寒の意味合いから、厚手の生地が主流になります。とはいえ、ここ数年は薄手の保温素材や発熱素材が普及して、“着ぶくれ”という表現もあまり聞かなくなりました。繊維業界の加工技術の進歩のおかげで冬のオシャレも軽やかなイメージになってきました・・・と思ってるのですが、やはりこの時期は筆者が利用している通勤電車の 6人掛けの座席が 5人掛けになってしまいます。

ベルベットと別珍

冬向きの生地に“起毛商品”があるのですが、その代表である「ベルベットと別珍の違いが分からない」という話を聞きました。
ということで、今回のテーマで取り上げたいと思います。

まずベルベットが英語で別珍が和名であるので、訳しただけのように解釈されてしまうこともあるようです。別珍の英語表記は“ベルベッティーン(velveteen)”となります。ベルベッティーンが転じて“べっちん”になって別珍と当て字をしたというのが通説になっています。
ベルベッティーン ⇒ ベルベッチン ⇒ べっちん といったイメージでしょうか。
ともあれ“ベルベット(velvet)”と英語表記も似てはいますが違うものなのです。
どちらもパイル生地のパイルをカットして表面を整えたものなのですが、ベルベットはタテ糸でパイルを形成していて、別珍はヨコ糸でパイルを作っています。

ベルベットは 13世紀にはイタリアで造られたといわれていて、日本でも 16世紀には戦国武将の帽子や外套(がいとう)に使われていたという記録もあることから、歴史のある生地といえます。
とはいえ、当時はポルトガルからの伝来であったためポルトガル語の veludo が日本語読みとなって“ビロード”として伝わったとあります。
和名は天鵞絨(てんがじゅう)、天鵞は中国で白鳥を意味するとのことなので、最初に伝わったのは白色の生地だったのかもしれません。
ベルベット(velvet)とビロード(veludo)は同じものということになります。もちろん当時は絹で造られていますので、シルクのベルベットのみビロードと扱われることもあります。

別珍は 18世紀にフランスで開発されたといわれていて、日本には明治になってから伝わってきた生地になります。別珍が拡まったのは別珍足袋(べっちんたび)が流行ったことでその名が知れわたったようで、大正時代には防寒用の足袋として大流行していたとも伝わっています。
綿の素材が主流だったこともあり、流通しやすい価格になっていたようです。別珍はヨコ糸でパイルを形成して作るのですが、ベルベットのタテ糸パイルほどは毛足が長くないのが特徴です。

ということで、“ベルベット”と“別珍”の違いを言葉で説明すれば、タテ糸パイルかヨコ糸パイルの違い生地の開発時期の違いなどを説明できますが、実際には見た目ではなかなか判別しにくいものになっています。
筆者の見解だけでいえば、毛足が長くて光沢があればベルベットで、毛足が短めで光沢が少なければ別珍ということを基本にしています。
昔と違って化学繊維の登場や加工技術の進歩でベルベット風な生地を造ることが難しくなくなっています。例えばフロッキーなどは加工によってベルベット風に仕上げているのです。

その他の起毛商品についても整理しておきますと

ベルベット(velvet) :英語
ビロード(veludo) :ポルトガル語
ベロア(velours)   :フランス語
天鵞絨(てんがじゅう) :和名

→いずれもタテ糸パイルで語源違いの同じ生地

ベルベッティーン(velveteen):英語
別珍(べっちん):和名

→いずれもヨコ糸パイルで語源違いの同じ生地

コーデュロイ(corduroy):英語
コール天(こーるてん):和名

→いずれもヨコ糸パイルで語源違いの同じ生地
※別珍の畝(うね)のある生地

となります。

織物組織の名前ですが、編物でも起毛商品はあります。とはいえニット生地の場合タテ糸やヨコ糸がないので、ベルベットとか別珍とかの呼称はあまり使いません。あまりという表現を使っているのは使ってはいけないということはないので、ニットベルベットとかニット別珍という生地名をつけてる可能性もあるということです。
筆者も生地開発をしていた時期は、自分の造った商品は勝手にネーミングしていました。ニット生地で起毛商品はニットベロアという呼称がもっとも浸透しているかもしれません。しっかりパイルを固定するために経編(たてあみ)かパイル編機で生産するものが主流となります。

ベルベット風な別珍も…

生地を造る立場であれば、タテ糸パイルのベルベット組織かヨコ糸パイルの別珍組織かはちゃんと理解しておく必要がありますが、出来上がりの生地がベルベットか別珍かは見分けられなくても、それほど問題になることはありません。
化学繊維の出現と加工技術の向上で“ベルベット風な別珍生地”も市場には多く出回っています。高級感イメージはまだ“ベルベット”の方が・・・これも筆者の年代だからかもしれません。

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