思いつきラボ

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No. 79 「羽二重(はぶたえ)織物と羽二重(はぶたえ)餅の呼び名は 同じ時期から …」

2016/12/30

繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。

※2016年12月30日時点の内容です。

2016年最後の思いつきラボとなりました。もう聞き飽きたとは思いますが、時間(とき)の経つのは早いものです。
思いつきラボの冊子の第2巻が 12月1日に発刊されました。2015年 4月~ 2016年 8月までを集めてもらっています。思いつきラボも読んでいただける方がいらっしゃるからこそ継続できていますので、定期的に覗いていただいている方や偶然検索でたどりついてしまった方たちにあらためて感謝いたします。
興味をもたれた方は当社の担当窓口か広報担当へお問合せください。

羽二重織と羽二重餅

今回のテーマは日本が誇る絹織物の“羽二重(はぶたえ)”の名称は、織物と福井銘菓の和菓子と同時期から使われてたというお話です。どうでもいいような題材ですが、思いつきラボらしいテーマなので取りあげたいと思います。

北陸地域も昔から越前・若狭地方では養蚕・絹織物の盛んな土地で、900年代には朝廷への貢献物として絹織物が使われてたという歴史書への記述も残っているとのことから、羽二重組織の絹織物があっても不思議ではないのですが、“羽二重”という名称は明治に入ってからのものらしいのです。

羽二重織物の説明をしておきますと、織物のたて糸を通す道具に“筬(おさ)”という道具を使うのですが、この筬にはそれぞれのたて糸の間隔を整えるためのガイドの役割をする櫛(くし)のようなものが並んでいて、羽(は)と呼びます。羽と羽の隙間に 2本の糸を通したものを羽二重と呼びます。ひとつの羽の隙間に糸を二重に通すこという意味合いからつけられています。
この織組織が考えられたのが、明治初期にヨーロッパへ派遣された使節団が持ち帰った絹織物の生地を参考にして考えられたとあります。数年後に量産になった頃には“羽二重”という平織の絹織物と称されるようになったと考えられます。

一方“羽二重餅”は、1847年創業の福井の和菓子屋さんが福井の羽二重織物が盛んになっていくのにあやかって命名したとあります。羽二重織物が先ではあるものの生産が増えはじめた段階で、羽二重餅もできていたというお話です。羽二重の織物は昔からで、餅菓子は最近のものという思い込みがありましたが、実のところはほぼ同時期に名付けられていたということになります。
羽二重は今や福井県の名産になっていますが、先ほど書いたヨーロッパ視察団の帰国後当初は、京都や桐生(群馬県)辺りで取り組みが始まったとあり、福井県は伝習生を京都や桐生に送り込んで製法を習得してもどり、研究を重ねて現在につなげてきたということになります。最初から北陸だけの特産物ではなかったということです。

福井銘菓 羽二重餅

やさしい生地の羽二重織

絹織物でも生糸(きいと)をたて糸にするのは難しいのですが、それは生糸が繭から取出した撚りがかかる前の糸だからで、撚ってないことで強度が弱く、引っ掛かりやすいことによります。
もともと糸に撚りを掛けるといのは、生地に強度を持たせ生産性をあげるための作業なので、生糸のまま使うことは技術を要することなのです。撚りが少ないことで軽くて柔らかい光沢のある生地ができるのですが、職人さんの技術に頼る部分が大きい素材ともいえるのです。
もうひとつ羽二重の特徴として、よこ糸を水で湿らせて織込んでいく製法を用いているのですが、北陸の降雪や日本海に面していることによる湿気の環境状況が羽二重には適していたということで、独自の発展を遂げてきたようです。

羽二重は着物の裏地や長襦袢に使われていて、もっとも肌にやさしい素材といわれているのですが、これは生糸を使っているからなのです。
繭から取出した生糸はフィブロインという成分とセリシンという成分で構成されていて、セリシンがフィブロインを覆った形状になっています。このセリシンが人間の皮膚を構成しているタンパク質に組成が似ていて、皮膚に刺激を与えないほどやさしいのです。絹は染める時にはこのセリシンがあると鮮やかに染まらないので、精練という工程で取り除いてしまいます。
フィブロインも肌に優しい成分ではあるものの、セリシンほどではありません。羽二重は染色をするものはもちろんありますが、精練をしない生成(きなり)仕上げのものは染料による余計な成分が肌に触れることもありません。もっとも肌にやさしいのは生成仕上げの絹羽二重ということになります。

羽二重という名称は明治になってからということですが、織物の組織でたて糸の筬目に 2本や 3本の複数の糸を通すことは明治以前から考えられていたと思うので、織物生地としては昔からの技法ではあったものの、外国製の織機を使ったときに羽二重の名称をつけたのだと考えています。
いまでは絹織物のといえば“羽二重”といわれるほどの生地になっていますので、素晴らしい名称だと思います。羽二重餅も人気商品なので相乗効果で“羽二重”が広まったと考えています。

2016年最後の原稿も筆者の勝手な解釈によるところが多いものになってしまいました。今年も思いつきラボにお付き合いいただきありがとうございました。来年も良い年に・・・来年は良い年に・・・来年こそ良い年に・・・皆さまそれぞれの思いはあると思いますが良い年にしたいものです。

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竹中 直(チョク)
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