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思いつきラボ
2016/11/15
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2016年11月15日時点の内容です。
数日前のNHKのニュースで、“奈良県庁で吉野葛を使った繊維でファッションショーを行った”という報道がありました。葛から造られる“葛布(くずふ・くずぬの)”というのはほとんど見掛けることはありませんが、日本では古くからある繊維なのです。という感じで何気にテレビを見ていたら、作り方が葛粉から・・・葛布は葛のツタから採取するはずなのにと思いながら・・・今回の思いつきラボはマニアックなネタですが葛から造られる繊維のお話しです。
奈良県と奈良県繊維工業協同組合連合会が共同で開発したこの繊維を使って、11月10日に奈良県庁でファッションショーが開催されました。葛の糸は本来、葛のツタを煮込んで皮を柔らかくして水に浸しながら表皮を取りのぞいたものを糸にするのですが、今回のニュースになった繊維はくず餅の原料などに使われる 吉野葛の葛粉成分を絞ったあとに残った繊維を和紙に漉(す)き込んだ“葛和紙”をスリットして、別糸と撚り合わせて造られているという説明になっていました。
別糸の素材がなんなのかは説明がなかったので最終的な混率はわかりませんが、従来の“葛布”とは異なる葛入りの繊維ということになります。
従来の葛の糸はツタから採取するのに対して、葛粉は葛の根っこから作るので同じ葛でも部位が異なります。しかも葛粉を絞り取った残りカスを利用するとはどこまでムダのない考え方かと感心してしまいます。もともと葛は有効活用されている植物で、葛の花は薬用として二日酔いの薬として使われていますし、風邪薬「葛根湯(かっこんとう)」には文字の通り葛の根も使われています。
ツタは糸に加工するものやそのままカゴなどを編むのにも使われています。
花・根・ツタすべてが役立っているのです。さらに秋の七草のひとつとして目も楽しませてくれるきれいな花をつけるのです。
今回ファッションショーで使われた生地は、軽くて吸湿性に優れていて、麻のような着心地が特徴で、地元の名産物として売り出していこうというアナウンスになっていました。
吉野葛はくず餅・くず切りが名産で人気も高いので、葛粉の残りもたくさん出てきそうなので、みやげ物にはいいかもしれません。話題になって本来の“葛布”にも注目が集まればさらに喜ばしいことになると思います。
特徴から察して夏用向けに適した素材のイメージですが、来年4月からインターネットなどで一般に販売されることになっているという予告もされていました。興味のある方は是非手に入れていただきたいと思います。
流れ的に本来の“葛布”も調べたら、ちゃんと生産しているところが静岡県の遠州地方にありました。江戸時代からの産地で、歴史的にも由緒のある布地になっていました。こちらも機会があれば触れてみたいと思います。
ツタから採取した葛の糸で織られたものを“葛布”と呼んでいるので、葛の根っこから取出した糸から造られた布地は別の呼称にしないと紛らわしくなります。沖縄の芭蕉布(ばしょうふ)や京丹後の藤布(ふじぬの)など昔は身近な植物から繊維は造られていたのです。芭蕉布はバショウという植物から、藤布は植物のフジのツタから造られている繊維なのです。
日本の古代布は“絹”と“麻”ということになっていますが、絹はカイコから造られるので問題ないのですが、麻については植物学的な分類は近代になってから整理されているので、麻とは名ばかりで別の種類の植物も多くあります。植物学の“麻”と繊維学の“麻”とは別のものという考えが必要なのです。
要は植物分類が確立されるまでは、繊維に利用できるものを総じて“麻”と呼んでいたのです。
繊維業界で麻とよばれているものについて整理しておきます。
というように、分類上いろいろな科に属しているのが分かります。必ずしも同じ仲間ではないのです。記載されている繊維で“麻”の表示ができるのは、亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)だけになっています。麻の名前がついているからといって、植物学の麻ではないものが繊維では麻と呼ぶことがあるということは覚えておきましょう。
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