思いつきラボ

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No. 34 「綿シャツは洗濯するとなんで縮むのですか?…」

2015/02/15

繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。

※2015年2月15日時点の内容です。

とてもシンプルな質問ですが、とても厄介な質問です。
製品トラブルの原因になることも多く、綿の収縮についての研究をされている学者さんも多くいると思います。筆者も繊維業界に40年ほどかかわりあっていますが、社会人になった時からずっと綿の縮みに関しての問題は解決されていません。
ということで今回の質問は“パス!!”(パスしちゃダメでしょう パスしちゃ!! トランプじゃないんだから・・・)。
確かに質問お待ちしてますと言っておきながら、質問見て知らん顔するのはマズイですよね。まあ綿の特性として解っていることも多いので、一度整理しておきましょう。

綿の縮み その原因は

まず、綿は原料段階では水に濡れただけでは縮むことはありません。綿の花を思い浮かべてもらえば理解しやすいと思いますが、綿の花が雨にあたるたびに縮んで小さくなることはありません。綿は植物繊維ですので雨に育てられているのです。ではどの段階から縮む要素が加わるかというと、原綿から糸にすることで縮む要因が作られていきます。原綿から綿糸になるまでの工程をさきに説明しておきます。
筆者が在籍した紡績での工程ですので、会社が異なると多少呼び方も違うかも分かりませんが、次のような工程手順になります。

1 原綿(げんめん)
いわゆる原料となる綿花ですが、輸入段階では葉っぱクズや茎クズなどの不純物も混じった状態で梱包されてきます。梱包をほどくとかなり圧縮された状態になっています。

2 混打(こんだ)綿(めん)
数日間加湿した部屋で原綿を放置して元のふくらみに戻します。不純物を取り除いて針状の装置で叩きながら綿の塊(かたまり)をほぐしながら細分化していきます。この段階で繊維らしい感じになってきます。

3 梳(りゅう)綿(めん) カード工程
梳(りゅう)という漢字は“くしけずる”という意味で、カーディングマシンという機械で髪をとかすように櫛状の装置で同一方向に揃えていく工程です。同時に不純物や短い綿も取り除いていきます。この段階で綿のいっぽん一本が引っ張られながら整っていきます。

4 梳(りゅう)綿(めん) コーマ工程
カード工程を通って次の工程に進むものはカ-ド糸と呼ばれる糸になりますが、さらにもっと均一性を求める場合は、カード工程につづいてコーミングマシンという機械を使って同じように繊維を揃えていきます。櫛状の装置はさらに細かい目のものになります。この工程を通って糸になるものがコーマ糸と呼ばれるものになります。ここでも繊維は引っ張られながら揃えられた状態になっていきます。

5 練(れん)条(じょう)
梳綿工程を終えると繊維の束となって太い紐状(ひもじょう)になります。この束を数本重ねてさらに均一化を図ります。この段階でもまだ繊維の方向を揃えるということが主体の工程です。

6 粗紡(そぼう)
やっと“紡ぐ(つむぐ)”という漢字が出てきました。ここで撚りを掛けていきます。指で紙こよりをつくるようなイメージをしてもらえば、繊維束が糸に変わっていく様子が想像できます。“粗い”という字が表わすようにあまり強くない撚りを掛けて糸らしい形状にしていきます。

7 精紡(せいぼう)
より均一な品質にするためにさらに撚りを加える工程で、ここで糸の太さやグレードが決まる工程となり、ようやく綿糸という製品となります。

という工程を経て綿糸は作られるのですが、糸は引っ張りながら撚りを掛けて生産されているのです。綿の繊維は中が空洞になっている中空糸(ちゅうくうし)のため、引っ張ると伸びやすい構造になっています。力を加えて引っ張って伸ばした状態にして撚りを掛けることで、形態が安定した状態で製品になっています。糸になった段階で本来よりも伸びた状態になっているので、元に戻るような作用が働けば縮む可能性を持っていることになります。

紡績後の伸び縮み

さらに、織物にしろ編物にしろ、ここでも糸を引っ張りながら生地を作りあげていくので、より伸びることになります。織り上げたあとや編み上がりでしばらくはリラックス状態になるので元にもどりますが、染色工程でもまた縮めたり引っ張ったりという作業が行われます。染色工程やソーピング工程(反物のすすぎの工程)では縮む方向になりますが、最後の工程で生地のシワや歪みを直すのに幅方向に強く引っ張りながら仕上げをします。テンター仕上げといって、生地の端沿いに針穴が見られるのがこのテンター仕上げの加工の跡なのです。
また反物に巻き上げるときもテンション(張力)は掛かりますので、生地方向(タテ方向)に引っ張られていきます。反物はかなりの力できっちりと巻かれていますので、引っ張られた状態のまま梱包されたものになっています。

縫製前にも、解反した後に裁断台で放反してできるだけもとに戻そうとするのですが、なかなか充分には回復させることができません。仮に反物を仕上げた状態に戻ったとしても、原綿のような素(もと)の形状に戻ることはありません。
ということで、生地段階でも縮む可能性はのこされているということになります。生地から縫製して製品になるのですが、例えば綿100% ニットシャツで考えてみますと、着用時には身体を動かすので生地は引っ張られて伸びると考えられます。また、着脱時にも引っ張って着たり脱いだりするので、着用前より着用後のほうがサイズは大きくなりやすいと考えられます。

この状態で洗濯するのですが、綿糸が水を含むと膨れて太くなります。この時に綿のいっぽん一本の繊維は内側方向へ力が働くので縮むことになります。さらに綿糸には空気層がたくさんあるので、洗濯でもまれるとその空気層を押し詰めていきますので、ここでも縮む方向へ力が働きます。繊維はそれぞれ素の状態になることが自然体なので、戻ろうとします。これを何度か繰り返していると綿糸は素の状態にもどります。ここまでくれば製品は縮まなくなります。経験的にも綿シャツを何度か洗えばサイズは安定することは判ります。洗うたびに縮むとすれば大人のシャツが子供シャツになってしまいます。

綿製品に付いている「タンブラー乾燥禁止」としているのは、高温でしかも叩きつけながら乾燥させるので、通常洗濯だと何回かで縮むのを一気に縮めてしまうので、収縮差が大きくなってしまいます。高温ということも綿が持っている脂いわゆる綿脂(めんし)も溶かしてしまうので、糸自身も痩せてしまっています。細くなった分隙間も増えるのでさらに縮むことになります。
引っ張るだの縮むだの同じ言葉が何度も出てきたので分かりにくくなったかもしれませんので、今一度まとめておきます。

綿の原料である繊維自身は水に濡れても縮むことはありませんが、綿糸にすることで引っ張られた状態になってしまい、洗濯することで元にもどろうという作用から綿製品は縮むと考えられています。したがって綿の繊維が素の状態まで縮むと、それ以上は縮まないということになります。
一般的に販売されている製品は収縮率も計算して縫製していますので、購入の際にはそのことも含めてサイズ選びをしてもらうのがいいと思います。綿シャツはちょっと大きめが丁度いいということになります。まあこれも一般論なので、イレギュラーな収縮トラブルもありますので、綿製品が縮むという問題はこれからも続いていくと思います。

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防災・安全評価グループ グループ長
竹中 直(チョク)
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