世界の化学物質の使用状況において、実に25％を占めている繊維関連製品の生産。昨年9月より開始した本コラム・《化学物質のいろは》では、SDGsの目標の1つでもある「12 つくる責任、つかう責任」を担う繊維産業・関連産業に携わるすべての方に、少しでもお役に立てるよう、化学物質に関する基礎知識と最新情報をお届けします。

図1　繊維産業チェーン概念図

ここのところニュース等で世間を賑わせている「アリールアミン」。
韓国での出来事として、下着類から、同国の基準値の約3倍もの発がん性物質が検出されたと当局が発表したとのことで、大きな話題となっています。この物質がまさしくアリールアミンとのことで、膀胱がんのリスクを高める可能性が以前から指摘されています。
第10弾では、アリールアミンの中で発がん性が認められる特定芳香族アミンについてご紹介いたします。

アリールアミン / 特定芳香族アミンとは

まず、繊維・ファッション業界内ではあまり聞き慣れない「アリールアミン」について改めて解説します。

アリールアミンとは、芳香環 (ベンゼン) にアミノ基 (NH₂) が結合した分子群のことです。このアリールアミンの中の代表的な物質の1つに、芳香環にアミノ基が置換した「アニリン」が挙げられます。

また、アリールアミンを理解していただく上で、あえて触れたいのが「特定芳香族アミン」です。日本では2016年の家庭用品有害物質規制法改正で、全ての業界関係者に知られるところとなった有害化学物質 (いわゆる、アゾ染料規制) で、周知のように、繊維製品などに使用されている染料の中で、発がん性が認められる成分に変化する可能性が指摘されています。特定芳香族アミンも、じつはアリールアミンに含まれる1物質なのです。
法改正当初、“アゾ染料の中に特定芳香族アミンという有害物質が含まれている”という、誤った認識があったと記憶していますが、これについても改めて解説しましょう。世界で使用されるすべての着色料 (染料 / 顔料) の中でいわゆる「アゾ染料」は約7割を占めると言われています。アゾ染料の中にあるアゾ基 (分子構造です) が、人の体内にある酵素などの作用＝着用時など＝によって還元分解され、分子構造が変わり、発がん性の指摘される「芳香族アミン」が生成される、というのが基本的な流れです。
芳香族アミンのうち、発がん性が疑われるものを「特定芳香族アミン」と呼んでいます。なお、日本では家庭用品有害物質規制法で24種類を規制対象としています (規制値：30 mg/kg)。
しかし、全てのアゾ染料が問題ではなく、そのうちの約5％が還元分解により特定芳香族アミンを生成すると一般的には言われています。

試験対象 / 分析方法

主に着色された繊維製品全般、革製品、着色料 等が試験対象となります。
主な試験方法の流れは、サンプルを採取後、還元分解を行い、珪藻土カラムを用いて特定芳香族アミンを有機溶剤相に移します。その後、濃縮を行いGC-MS等の分析装置にて分析を行います。

図2  o-トルイジン (特定芳香族アミンの一種)

エコテックス®の規制 (アニリンを含む25種類)

家庭用品有害物質規制法ではアニリンは規制対象外ですが、エコテックス®基準では発がん性の恐れがあるため、これも規制対象としています。

【スタンダード100】

　Annex 4
　芳香族アミン24種：20 mg/kg (全ての製品クラス)
　アニリン：20 mg/kg / 50 mg/kg (製品クラスⅠ / 製品クラスⅡ～Ⅳ)
　Annex 6
　芳香族アミン24種、アニリン：20 mg/kg (全ての製品クラス)

【レザースタンダード】

　芳香族アミン24種：20 mg/kg　アニリン：100 mg/kg (全ての製品クラス)

【エコパスポート】

　芳香族アミン24種、アニリン … 希釈薬剤：100 mg/kg、非希釈薬剤：20 mg/kg

ニッセンケン化学試験事業部からの一言アドバイス

様々な規格や法律で規制されている特定芳香族アミンですが、エコテックス®認証を取得していればそれらをカバーすることが可能です。また、2024年3月19日に、化粧品用の色素 (タール色素) の自主基準として、日本化粧品工業会が「不純物として混入の可能性のある特定芳香族アミン等」についても「管理値」を設定する等、特定芳香族アミンの有害性が再注目されています。

今後も本コラムにて“有害物質最前線”をお伝えしていきますので、ぜひご期待ください！

【有害化学物質に関するお問い合わせ先】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
ライフ アンド ヘルス事業本部 化学試験事業部
E-mail : oeko-tex@nissenken.or.jp